浦の星女学院高校

7/12
前へ
/25ページ
次へ
さえ「千覇くん、この後はどうする?」 千覇「今日は…」 千歌「さえちゃん!この後時間ある?!」 曜「千歌ちゃん、そんなに声張らなくてもいいと思うよ?」 千覇は答えようとしたら、千歌に遮られてしまった。近くにいるのにそんなに声を張る必要はないと思うのに、元気一杯なのはいいことだが・・・ さえ「この後?特にないよ?」 千歌「この後一緒に遊ばない?千覇くんはどう?」 千覇「ごめん、俺はちょっと用事があるんだ。」 千歌「そっか・・・。じゃあ、時間ある時にまた誘うね!」 千覇は頷く。さえと千歌と曜に挨拶をして教室を後にした。ノリが悪いと思われたかもしれないが、今日に関してはどうしても外せない用事なのだ。千覇はバス停へ向かい、バスに乗ってある場所へ向かった。バスの中で、さえに「ノリの悪い人だと勘違いしたら、誤解を解いて」とメッセージを送る。 数十分後、着いた場所は、市立の病院だ。中に入り受付を済ませると自分の番を待つ。程なくして自分の名前を呼ばれたので診察室へはいる。 「いらっしゃい。思ったよりも遅かったね、かずみん?」 千覇「内浦からだと遠いから仕方ないよ。あと、その名前で今は呼ばないでください、琴瀬さん。」 診察室にいるのは、白衣を着た銀髪ポニーテールの女医の救遊琴瀬(きゅうゆうことせ)。千覇の親戚の一人である。彼女は内科医でありながら、カウンセラーの資格も持っている。千覇はカウンセリングを受けるため、定期的に琴瀬のもとを訪れている。カウンセリングを受けてもうすぐ二年が経つ。 琴瀬「いいじゃない別に。ここじゃ誰かに聞かれるわけじゃないんだから。」 千覇「だとしてもです。いつもみたいに、かずくんでいいです。」 琴瀬「はいはい、分かったわよ。で、予定日より早いってことは」 千覇「・・・察しの通りだよ。昨日、『もう一人の自分』が出てきた。」 琴瀬「きっかけは?」 千覇「俺が浦の星に編入のメンバーに選ばれたことだと思う。」 千覇は昨日会ったことを説明する。琴瀬はそれを聞きながらメモをしていく。琴瀬のメモの取り方はフローチャート式なため、一枚の紙はすぐに埋まってしまった。千覇が説明を終えると、千覇の過去のカウンセリングでとったメモを見比べを始める。そして、 琴瀬「なるほどね・・・。かず君は、今回の出現のトリガーはわかってるんでしょ?」 千覇「・・・『浦の星女学院高校』。」 千覇もそれ以外にもう一人の自分が出てくる理由が浮かばなかった。浦の星女学院高校は、千覇にとって、ある人物に関係する場所になる。もう一人の自分は、その人物に関係する出来事に反応して現れることが多い。 琴瀬「そうだね。今回の特定は簡単だったね。にしても、浦の星女学院高校か。かず君的には最悪じゃない?」 千覇「ですね。なんせ、『あいつ』の志望校だった高校なんで。」 琴瀬「・・・これも運命のいたずらなのかしら。そんな運命変えてあげたいけど、私には話を聞くくらいしかできないのが悔しいわね。」 千覇「感謝してますよ?気軽に話せる人が少ないんで、それに、二年間近くもお世話になってるのに未だに治る兆しが見えない自分に付き合ってもらってるから。」 琴瀬「まぁ、私にとってはかわいい親戚の一人だもん。それに、あなたの負ってる心傷の深さを知ってる以上、放っておけるわけないでしょ。」 琴瀬はとても優しい人だ。二年前からこんな状態の自分と向き合ってくれる。見捨てることなく、親身になって一緒に悩んでくれる。親戚だからという理由もあるかもしれないが、それを感じさせない。千覇は、そんな琴瀬にとても感謝している。だからこそ、疑問を持つ。 千覇「こんなにいい人なのに、なんでモテないんだ・・・」 琴瀬「あら、ケンカ売ってるの?」ニコニコ 千覇「単純に疑問なんですよ。あと、その拳は降ろしてください。」 琴瀬「ま、結婚なんて今は考えてないわ。それよりも、そろそろいつものを始めるわ。」 千覇「分かりました。」 千覇は立ち上がり、部屋内にあるベッドに横になる。琴瀬は千覇にヘッドフォンを付ける。千覇はゆっくり目を閉じながら意識を耳に集中させる。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加