浦の星女学院高校

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時間は経ち、千覇が病院を出るころには夕方になっていた。カウンセリングにはかなりの時間を使う。千覇の抱える問題を解決するために治療をしているが、効果は少しずつ出ていると琴瀬は言ってくれているが、千覇にはそれが実感できない。はじめのころに比べたら進歩はある、が、最近はそれを感じられなくなってきた。 千覇「焦らずにって琴瀬さんは言ってるけど、気にはするよね。」 二年間も付き合わせているんだ、そろそろ先に進まないと申し訳なくなるが、琴瀬は知っている、千覇が先に進めない理由を。千覇自身もそれには気が付いている。でも、進めない。その理由を、捨てることができないから。 マンションに向かうバスに乗り、千覇は窓から見える景色を見ている。そこから見える海の景色を見ていると、少し遠くに見える桟橋に見覚えのある人物を発見する。その人物は、 千覇「(千歌?こんなところで何してるんだ?)」 千覇は桟橋を走っていく千歌を見ていると、その先には・・・スクール水着をきているワインレッドのロングヘアの女子生徒がいた。千歌はその生徒を止めるように腰にしがみついた。気温は温かくなってきたとはいえ、まだまだ寒い。海温ならなおさらだ。 千覇「(こんな時期に海に飛び込むつもりだったのか・・・)」 千覇は千歌の行動を見ていた。千歌と水着の生徒は互いに何かを言い合っているようだ。次の瞬間、互いにバランスを崩した二人は、水柱を立てながら海に落ちた。 千覇「・・・!すみません!次降ります!!」 千覇は下車ボタンを押す前に声を上げて運転手に伝える。水温は低い海にいきなり飛び込めば下手したら心臓麻痺も考えられる。ましてや一人は水着。最悪な光景が千覇の脳裏をよぎった。幸いなことに、バス停はすぐ近くだった。千覇は千円札を運転手に渡して急いで桟橋へ向かった。 桟橋に着くと、近くの浜辺に二人の姿を見つける。 千覇「千歌!大丈夫か!?」 千歌「か、千覇くん!?だ、大丈夫だよ・・・貴方は?」 「わ、私も大丈夫です・・・くしゅん。」 どうやら二人とも無事らしいが、全身海水に浸ったために体が冷えてきているのだろう。早くタオルが何かで乾かさないと風邪をひいてしまう。 千覇「近所からタオル来るから、ちょっと待ってろ。」 千歌「私が持ってくるよ。私の家、すぐそこだから。千覇くんは何か温かい飲み物買ってきて!」 千覇「・・・分かった。っと、その前に。」 本来ならば千覇が両方やらなきゃいけないと思うが、下手に千覇がいって事態をこじらせるよりマシだと思い、タオルは千歌に任せることにした。千覇は自販機へ飲み物を買いに行く前に、ワインレッドの少女の肩に制服の上着を掛ける。 千覇「気休めにしかならないと思うけど、タオルが来るまで俺の制服を使って。」 「で、でも、海水で・・・」 千覇「クリーニングすればいいだけの話だ。気にする必要はないよ。」 千覇は返事を聞かずに自販機のもとへ走っていった。男子の制服に抵抗があるかもしれないが、まだ一回しか着てないほぼ新品同様のものなので大丈夫だろう。自販機のラインナップの中から温かいコーヒー、お茶、ココアの三つを買い、少女のもとに戻る。同じタイミングで千歌がタオルを複数枚持って帰ってきた。
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