浦の星女学院高校

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海水浴で真水を入れるドラム缶に薪を入れ火をおこし、千歌はドラム缶のそばでココアを飲みながら温まっている少女にタオルを渡す。千覇は、近くの階段に座って千歌にコーヒーとお茶のどっちがいいか聞くと、即答でお茶と答えた。どうやら、コーヒーは苦手らしい。 千歌「大丈夫?沖縄じゃないんだからさ。海に入りたければダイビングショップがあるのに。」 千歌はそういいながら濡れた髪をタオルで吹きながら、千覇の隣に座る。千覇は海を見ながら買ったコーヒーを一口飲む。海を見ているのは、少女が水着を着ているためだ。人の話を真面目に聞いていないように思われるが、少女の方を見ていたら変態だと思われるので、海を見て会話に参加しようと考えた。 「『海の音』が聞きたいの・・・」 千覇「(『海の音』・・・音・・・。)」 千歌「『海の音』ぉ?どうして?」 千歌は少女に質問するが、少女は答えようとしない。言いたくないわけがあるのか、それとも、別の何かがあるのか。少女は少しうつむいたまま黙り込んでしまった。 千歌「わかった、じゃぁもう聞かないぃ・・・。海中の音ってこと?」 「・・・ふふっ。」 千歌は観念してニコニコしながらバカっぽいことを言うと、少女が初めて笑った。千覇はこのまま黙って二人の会話を聞くことにした。『音』、その話題が出るなら、深入りをしたくなかったから。もしかしたら、音楽の話に発展してしまう可能性があるから。 「私、ピアノで曲を作ってるの・・・。でも、どうしても海の曲のイメージがわかなくて・・・。」 千歌「ふぅん、曲を。作曲なんてすごいね!ここら辺の高校?」 少女は少し暗い顔になった。 「・・・東京。」 千歌「東京!わざわざ?」 「わざわざっていうか・・・」 千歌「じゃぁ、だれかスクールアイドル知ってる?」 少女の答えを聞く前に千歌は少女の隣に移動して質問をする。千覇は、缶コーヒーを握る手が少し強くなり、缶が僅かに凹む。 「スクールアイドル?」 千歌「ほら!東京だと有名なグループたくさんいるでしょ?」 「何の話?」 千歌「へ?」 少女は何の話をしているのかわからない顔をし、千歌は口を開けたまま顔が固まった。二人の間に沈黙が訪れる。千覇の後ろでは、沼津行きのバスが通過していった。千覇は、あることに気が付いた。今通過したバスは、沼津行きの終バスだった。千覇は、帰るタイミングを逃してしまった。この二人の会話を聞いたところで、千覇にとっていいことは何もないのに。千覇は、ため息をつきながらコーヒーを飲む。千覇がそんなことを思っている間に、千歌は立ち上がって少女に「知らないの?」と話していた。 「有名なの?」 千歌「有名なんてもんじゃないよ?ドーム大会が開かれたことがあるくらい、ちょー人気なんだよ!って、私も詳しくなったのはつい最近だけど・・・。」 「そうなんだ。私、ずっとピアノばっかりやってきたからそういうの疎くて。」 千歌「じゃぁ、見てみる?なんじゃこりゃぁってなるから」 「なんじゃこりゃ?」 千歌「なんじゃこりゃ。」 千歌はそう言ってポケットからスマホを取り出し、少女に画面を見せる。千歌が見せている画面には9人の千歌と同じ女子高生たちが写っていた。千歌は少女にその画像を見た感想を聞く。 「どうって・・・なんというか、普通?」 それを聞いて、千歌は何も言わないので少女は慌てて、 「悪い意味じゃなくて!アイドルっていうから、もっと芸能人みたいな感じだと思ったというか・・・。」 千歌「・・・だよね。」 「ふぇ?」 千歌の反応に少女は困惑した。慌ててフォローしようとしたのに、千歌が少女の意見を肯定したから。誰だって、困惑するだろう。 千歌「・・・だから、・・・衝撃だったんだよ。」
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