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同時刻、浦の星女学院高校理事長室
鞠莉「ふぅ・・・。」
今日の仕事がひと段落し、背もたれに体重を預ける。書類はきれいに整頓され、目の前にあるのは一枚のみ。そこには、前の高校までの様子であったり、どんな生徒であったかが詳細に書かれていた。その書類に書かれている生徒の名前は、桜内梨子。国立音ノ木坂学院高校から受け取った書類に目を通し終えた鞠莉は椅子を回転させて、窓から夕陽の差し鮮やかな色になった校舎を見る。
鞠莉「これも、運命のいたずらなのかしら。それとも・・・フフッ。」
明日からの学園生活が少し楽しみになり、鞠莉は帰宅の支度を始める。桜内梨子という歯車が、スクールアイドル部設立を目指す高海千歌にどんな行動をさせるのか、そして、
鞠莉「空芽千覇、貴方にとって、彼女たちとの出会いがどのような変化を起こすのか、起こさないのか・・・って不謹慎かしら?でも・・・彼にとっては酷なのかもね。」
今日、編入してきた彼のことを思い出す。彼の書類を見た際に、知った事実。千覇にはこの出会いは、つらいものがあるだろう。でも、避けられないものかもしれないと鞠莉は思った。彼がどのように向き合っていくのか、どう進んでいくのか、理事長として見届けなければと思いながら、理事長室を後にした。
その日の夜
千覇は明日の支度をしていた。明日着るワイシャツの横には黒のベストがかけられていた。あの後、沼津へ行くバスがないことに気が付いた千歌が、彼女の姉の美渡に頼んで千覇を送ってくれた。制服の上着に関しては、梨子がクリーニングできれいにしてから返すといって引き下がらなかった。東京出身だからここまで来るのは大変だろうと思い、気にしないでいいといったが、―千歌が美渡に送迎をお願いしているときに聞いたが―、彼女は浦の星女学院高校に転校するらしく、家もこの近所らしい。そのまま押し切られてしまい、クリーニングから返ってくるまではベストで登校することになった。理事長からは許可はもらっているので、校則云々は言われる心配はない。
千覇「にしても、音ノ木坂学院高校か・・・。」
カウンセリングを受けて2時間と経たないうちに、ため息をつかざるを得ない状況になってしまうとは。部屋に戻ってから、琴瀬にはこの事を伝えている。既読が付くと同時にクソデカため息のスタンプが送られてきた。不慮の事故とは言え、千覇自身返す言葉もなかった。琴瀬は「何かあればすぐに連絡すること」と念を押された。
千覇はベッドに横になり、今日一日を振り返り、大きく息を吐いた。浦の星女学院高校への編入、スクールアイドル、そして、音ノ木坂学院、千覇にとっては最悪な言葉たちだ。どれも「もう一人の自分」を覚醒させるトリガーになりうる言葉だ。これからこの言葉たちが千覇の周りに常にある状況が続く。
千覇「はぁ…周りに迷惑をかけないように生活しないと。」
千覇は支度を終えると部屋の電気を消し、再び横になる。思いの外疲れていたらしく、夢の世界にすぐに誘われた。
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