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幕間 みさきの秘密
「一応言うとこうかなー」
みさきが入浴しているので、このリビングには男性陣しかいない。
一人がけのソファには客人の透が座り、その向かいにあるものには誠史郎が。そして高校生三人は真ん中にある三人掛けのソファに並んで腰掛ける。
透は肩頬だけを器用に上げて不敵に笑った。
「何だよ」
眞澄が警戒した表情で透に向く。
「俺がみさきちゃん掻っ攫っていっても恨まんといてな」
にっこりと笑った透に皆が神経を逆撫でされる。
「……みさきの鈍感さ、ナメるなよ」
「問題はそれやな」
透はソファーに深く腰掛け直し、うんうんとうなずいた。
「みさきさんは高校生ですから、強引なことはいけませんよ」
「なるほど。先生が手ェ出さんのはそういうことか。せやけど、ちゃんと結婚するならええんとちゃう?」
透は長い足を組んで鋭く微笑む。誠史郎は眼鏡のブリッジに指先をかけて位置を直した。
「なるほど。確かに、真壁家の次男が婿に来るとなれば……真堂家にとっても悪い話ではありませんね」
「せやろ?」
「みさきさんが同意すれば、ですがね」
誠史郎と透の間にバチバチと火花が散る。
「みさきのいないところで僕たちがあれこれ言っても仕方ないと思います。選択権はみさきにありますから」
淳は困ったような微笑みを浮かべて場を収めようとした。
「そうだよね。じゃあみさきに選んでもらえるようにがんばらないと」
笑顔でリビングを出ようとする裕翔。その襟首を眞澄は立ち上がってとっさに掴んだ。悪い予感がしたのだ。
「何をがんばるつもりだ?」
「みさきと一緒にお風呂入ろうかなって」
全く悪びれた様子のない裕翔を見て、透はなるほどと手を打つ。
「確かに裸の付き合いしたら仲は深まるやろうなぁ」
「バカなのか!? そんなに裸の付き合いがしたいなら男だけで銭湯だ」
「男の裸なんか見てもしゃーない」
「今出かけるのは危険だよ、眞澄」
四人の男のやり取りに誠史郎は呆れたように深々とため息を吐いた。
「貴方を味方に、なんて考えた我々が甘かったですね……」
みさきにとって違う意味での脅威を増やしてしまった。裕翔まで感化されてしまっている。
「みさきちゃんを守るっていう点では団結できると思うで」
「お前が一番危険だろ」
「そうかなー?俺よりみんなの方がみさきちゃんにいろいろしてると思うなー」
意味ありげにニヤニヤと笑う透から皆それぞれに視線を逸らす。
「特に眞澄とセンセは怪しい」
名指しされ、明らかに狼狽えたのは眞澄だった。
「なっ……!何もしてない!」
「グエッ」
「眞澄!裕翔の首が……!」
淳の声に焦って眞澄は裕翔を掴んだままだった手を離す。
「その慌て方、怪しいなぁ」
「あまり眞澄をいじめないでやってください、真壁さん」
苦笑を浮かべて諌める淳を透はまじまじと見回した。
「淳クンは何か知ってるん?」
「何か……とは?」
ミルクティーの色をした瞳は、探るように透を見る。
「はっきり言うたら、みさきちゃんのあの鈍感さは異常や」
透は淳の瞳を真っ直ぐに見つめる。淳も透から視線を外すことはしない。
「何かある、と俺は思ってる」
「僕も、確信があるわけではありませんが、貴方のお兄さんがみさきに言った言葉……。みさきは『眠り姫』。その通りなんだと思います」
「周がみさきさんに術を施しているのでしょうね」
「えっ……」
誠史郎の言葉に眞澄は目を瞠った。
「僕もそう思う。だけど周のかけた術ならそう簡単には破れない」
「なるほどな」
透は面白いオモチャを見つけた子どものように目を輝かせた。
「どういうこと?」
眞澄のシャツの袖を裕翔が引っ張る。
「……みさきは、恋をしないように術をかけられてるってことで良いのか?」
淳の方を見て確認すると、彼は優雅に小さく頷いた。
「何で?」
きょとんと首を傾げる裕翔に、淳は小さく笑いかける。
「以前真壁さんが言っていた通りのこともあるけれど、僕らの存在も関係しているだろうね。眷属は主人を愛するようにできているから」
「おそらく、術を打ち破るのはみさきさん自身にしかできないのでしょうね」
「ほんなら、やっぱり俺もホンキ出さんとなぁ」
「オレもオレもー!」
やれやれと言わんばかりに誠史郎は頭を振った。
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