『蛇』の獲物

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『蛇』の獲物

私は少し、後悔していた。 昨日会った少年が、あんまりにも哀れに愚かしくて、少し話過ぎてしまった。あの少年、東矢、だったかしら。不思議な子だった。きれいな顔をしていて、眉際までのびた柔らかな髪の奥の、朝の湖のように静かで不思議に薄い瞳で、まっすぐに私を見つめていた。キーロのために来たといっていた。しかもキーロは友達の友達。優しいけど、馬鹿なんだろうな。 蛇に半ば同化した私には、あの少年を見たときの蛇の悦びと高ぶりが痛いほどわかる。蛇の興味は明らかに私から少年にうつった。 せめて、蛇がキーロの位置がわかることは黙っておけばよかった。 私が復讐する前に、キーロに自殺でもされたら意味がない。蛇も少年を煽りすぎだろう。あれじゃぁ、誰でも死にたくなる。 夕方にようやく蛇が起きてきたとき、私はキーロがまだ生きているか尋ねた。蛇はチロチロと二股に分かれた舌を出し入れして探る。 「生きて、いる、よ。く、く、昨日、の、お客、と、一緒、の、よう、だ」 それなら、早く殺しにいこう。勝手に死んでしまわないうちに。 私は無関係な者がいることがわかって、その上で苦しみを与えて殺している。だから私は苦しんで死んでも仕方がないと思っていたし、一応覚悟はしていた。だが、蛇は私をとっとと殺して少年をいたぶりにいくんだろう。拍子ぬけだ。少年がかわいそうだな、とは思ったが、私はその分助かった。なんだか救われたような、不思議な、申し訳ない気分だ。
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