『蛇』の獲物

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蛇は私をいざない、目的地に向かう。 そこは、新谷坂山の麓の林の奥。蛇はこの山に立ち寄るのに少しのためらいを見せたが、場所が山頂ではなくふもとであると理解すると、むしろ先を促された。蛇は断片的に、長い間ここの山に閉じ込められていたから、ここは嫌いだと語った。 日は大分落ちて、微かなオレンジ色が少し残るくらいで、空は藍色に染まっている。あつらえたような逢魔が刻。たくさんの不幸が行動を開始する時間。 まもなくすっかり日は落ちて、あたりは闇に沈むだろう。私は何も見えなくなるが、蛇はもとより目が見えない。キーロを殺すのに支障はない。私も耳が聞こえれば、キーロの苦しみは把握できる。苦しめて殺したいけど、今更苦しむ姿自体をわざわざ見たいとも思わない。それより闇に紛れてこっそり近づけた方が得策だ。 到着地点は小さな洞窟のようだった。入り口の高さは2メートルほどだろうか。山肌は自然に崩れたというよりは、防空壕のように誰かが堀ったものを思わせる。昨日今日のことには思われないほどには古いもののようだ。洞窟内は湿っていた。 それにしても、やはりあの少年は愚かだ。隠れているつもりか。見つからないとでも思ったか。こんな逃げ場所のないところに隠れるなんて、殺してくれといっているようなものだ。 「蛇、私が殺したいのはキーロよ。終わるまで、あの子には手を出さないで」 「わかって、い、る」 ザラザラとした蛇の声は期待に打ち震えていた。 洞窟の中は少し湿って、変な匂いがした。 私と蛇はなるべく音をたてないように洞窟に足を踏み入れたけれど、真っ暗だったからやはり何かを踏んで、パキっと音がしてしまう。 「サニーさん……?」 少し先から、おどおどと怯えたような声がする。昨日聞いた少年の声だ。洞窟で音が響いているせいか、妙に現実感のない声だった。
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