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「昨日ぶりね。私はあなたには用はないわ。だから少し出て行ってもらえたほうがありがたいのだけど」
洞窟の中を声が反響する。
「蛇も今出ていくなら、あと3日は待ってくれると思うわ。いまキーロを殺して、私が死んだら、歯止めが効かなくなるわよ」
実際、蛇からはそんな雰囲気を感じる。
「さに、い。余計、な、こと、は、いう、な」
蛇は耳元で私にだけ聞こえる小さな声でささやき、ずるずると私の背中から長い胴体を吐き出していく。
「ふ、ん、狭い、な」
洞窟の幅は高さも幅も2メートルくらい。高さがない分、動きにくくはあるだろう。だが蛇は蛇だ。ロープのようなしなやかな身体は自在に動くし、絡めとられればむしろ逃げようがない。だから私たちは獲物を逃さないよう、基本的にはせまい通路を選んだ。本当に、愚か。
「そこで止まって。サニーさん、僕は正直、死にたく、ない。キーロさんも、死んでほしくない」
少年のひどく怯えた声が響く。私は思わず足を止める。
「昨日も言った通り、それは無理よ。あなたには気の毒に思うけど」
「やっぱり、殺されるんだよね……」
少年の声に諦めが混じる。
「僕は生きていると、蛇はまたここに封印される可能性があるから」
そうなの? それは初耳だわ。
「でも、死ぬならせめて、痛いのはいやだ。苦しまないように、……死なせてくれないかな」
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