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「さて、最後にごまかす方法だけど、東矢の声を録音してキーロさんが持って流すのはどうかな。相手は体温と声の聞こえる位置で判断するだろうから、あとは極力動かないようにすればなんとかなる気がする。後は何かあるかな」
にゃぁ、という声がする。
「呪いの強度でばれる可能性があるって。吸収の札をまいたら、一定は吸収されたりしないかな」
僕のつぶやきにナナオさんが左手首のアザの上に吸収の札を巻いてくれた。三枚巻いたところで、蛇の匂いがずいぶん薄くなったと感じる。でもそれが限界で、それ以上は薄くならなかったけど。ニヤに確認すると、僕の方がキーロさんより気配は薄いらしい。
「じゃぁ、最後に録音を作ろうか。何パターンかのシナリオと、汎用的に使える言葉をいくつか録ろう。東矢、お前の余生の悲惨さがかかっているんだから真面目にやれ」
そこからは、なんというか、生まれてこの方一番恥ずかしい時間だった。
「苦しまないでいいなら何でもする」とか、「ひっ。こっちにこないで」とか、「お願い、助けてください、何でもするからぁ」、とか、果てはすすり泣きまで録音された。しかも本気のナナオさんの熱心な演技指導付きで。藤友君は気の毒そうに僕を見てたけど、時々小さく吹きだしている。ひどい。
おかげで、物凄く哀れっぽい、なさけない録音集が完成した。その頃には3袋のクッキーが消費されていた。藤友君の8割いけるというお墨付きとともに、お前すげぇな、と言ってくれたけど、これが黒歴史か……。
「まかせて。私、妄想力には自信がある、絶対自然な感じで録音を流す」
キーロさんは録音の順番を必死で覚えて、真っ暗の中でも任意の声を再生できるように練習した。多少のノイズは洞窟のハウリングで紛れるに違いない。
でも再生の度に僕の声が流れて、もう、死んでしまいたい……。
でも、僕がうまくやれなかったら、3人と会えるのはこれが最後だったんだろうな。
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