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「盗難だとしたら先生くらいにしか盗めそうにないんだけど」
平が呟く。財布は金庫に入っていたはずで、金庫に入ればただの生徒は盗めない。となれば金庫の鍵を持っている教師達が怪しくなる。
「いや、魔が差したとしても二千円くらいだしねえ。先生がそんなお金盗んでもどうしようもないよ。そんな額で誰が見てるかわからない場の金庫開けないだろうし」
花咲が答えた。教師なら二千円よりも自分の安定した給料の方が大事なはずだ。なので教師が盗んだとは考え辛い。
「じゃあ犯人は教室に誰もいないときを狙って、先生から盗んだ鍵で花咲の財布を盗んだんだ!」
「郷田、あんた推理向いてないね。だったらなんで細川君の財布は無事だったの?」
「それは……」
「そもそもその方法は難易度高すぎ。今日移動教室なかったじゃん」
誰も見てない時すらなかった。クラスメイトが盗んだというのも難しい。花咲達はあれこれ考えては唸った。
「あのう、僕は役に立たなさそうだし、塾があるから帰っていい?」
膠着状態の教室で あまり口数のないガリ勉と呼ばれる生徒、三田が言いだした。彼らは受験生。犯人探しも大事だが、受験のための勉強も大事だ。花咲が財布を預けたという証言もすでに出ているのなら、その証人以外は帰っていい。
「待てよ、犯人は現場から離れたがるものだぜ?」
キメ顔の郷田にそう言われれば三田も皆も帰るわけにはいかなくなった。このクラスで一番強いのは郷田で、彼とは別の意味で強いのは花咲だ。推理に向いてない郷田は何がなんでも犯人をみつけようとするだろう。もしかしたら今から帰ろうとする人物を犯人に仕立てあげるかもしれない。
「待って郷田。変な事言わない。三田君も帰っていいから。皆も、転校生の桂木君もね。まだクラスのことよくわかんないでしょ」
塾のある三田をこれ以上引き止められない。そして最近このクラスの一員となった目立たない生徒、桂木も。まだクラスメイトの名前も覚えていないのに、引き止めてはかわいそうだ。
「そのかわり無記名で書き込めるチャットルーム用意したから。なんか情報あったら教えて! ってことで今日は皆帰っていいからね!」
「出たよネットに強いギャル」
「本当は受験の愚痴の場にしたかったんだけど、まさかこんな使い方するとはなー」
花咲は黒板にそのアプリとIDを書き出した。残った皆もスマホを出しそれを入力する。花咲は派手な見た目に反して機械に強い。父親がアプリの開発に関わっており、本人も写真や動画の共有のために便利なアプリに詳しいのだ。
愚痴るため、無記名で書き込める場を用意していたのだろう。無記名ならば何かを見たが怖くて言えない生徒も書き込める。
ちなみにこの学校、携帯電話の持ち込みは緊急連絡手段として可だ。ただし授業中に鳴らしたり使ったりすれば容赦なく没収され金庫入りとなる。
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