三年三組の見えない探偵

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■■■ 次の朝のホームルームで教壇に立ったのは、副担任の佐知村だった。 「えーと、一部の子も知っての通り、丹波先生は問題を起こしました」 すでにあのチャットルームの存在はクラス中に知れ渡っている。なので佐知村はかなりぼやかして説明をする。 「丹波先生は女子の私物を手にとって、その、女子の個人情報を抜き取ってから本人に返していたみたい。教頭先生が丹波先生のケータイを確認したら女子のメモや持ち物の写真がいっぱい出てきて。でも本人も反省して、本人の希望でこの学校をやめる事になったの」 女子はもちろん、男子も嫌悪感を隠そうとしなかった。きっと丹波は花咲の財布を一時紛失したようにみせかけて、財布の中を確認しようとしたのだろう。レシートや交通カードなど、プライベートな情報を期待して。 手帳を無くしたという生徒も関係がある。丹波は女子の手帳を盗んで、その中の情報を確認してからこっそり返した。 事が判明してから似たような話がぞろぞろと出た。ポーチを失くした生徒。本を失くした生徒。ただそれらは数日後には何者かの手によって戻ってきたという。過去スマホを没収されロックもかけていなかったという女子生徒は学校に来るなり泣いていた。 盗んだとはいいきれないため、警察沙汰にはしにくい。だがこれから教師としてこの教室で教える事はもうできない。 「マジきめーんだけど。あの先生変態かよ」 郷田でさえぞっとした様子だ。佐知村はそれを擁護するように付け加える。 「学校の先生というのはその立場から勘違いをしがちなものなの。多分、丹波先生も。生徒の情報をいっぱい知って、その情報って成績とか家族構成とか、普通なら相手と仲良くなれないとわからない情報よね。それで仲良くなれたと勘違いして、でも先生と生徒だから距離があって、だから丹波先生は情報を集めて、さらに仲良くなれた気になりたかったというか」 「それ、なんで女子限定なんだよ。男子は盗まれてねーんだけど」 「……ごめんね、私もフォローしなきゃいけない立場なんだけど正直フォローしきれない」 佐知村のフォローは郷田に一刀両断された。『生徒と仲良くなった気になりたかった』が動機なら男子のものも盗まれていないといけない。しかし本当の動機は気持ち悪くて考えたくもない。教室はざわめいて、それを佐知村はなんとか抑え込もうとする。 「とにかく、私がしばらく担任をする事になったから。あとこの事はあまりSNSで話したりしないようにね。この話はそれでおしまい。一時間目は音楽でしょ、音楽室に行ってらっしゃい」 それでおしまいと言われても、巻き込まれた側としてはそう簡単に切り替えられない。音楽室に向かう準備をしながらもこの事件に対する感想を口にしていた。 「この受験で大変な時にこんなくだんねー事件起こすとかまじありえねー」 「うちらの受験どうなるの?」 「キモすぎて無理」 「ログ見たけど推理小説みたいだったよなー」 「あれ、誰の推理?」 「それが無記名だからわかんねーんだよ」 「あの教室にいた人間なのは間違いないんだよね?」 色んな感想を述べるものがいた。しかし誰もが思う。あの推理をした探偵役は誰だったのか。
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