役にたたない探偵

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「別にアイス食べてるとこ見られたってなんの意味もなくない? 食べさせあってるわけじゃないんだし意識しすぎ」 「……それもそうか。じゃ、行こう」 花咲は男性と二人で何か食べるとしても、とくに意味はないと思っているのかもしれない。確かに意識し過ぎだ。それに彼女には聞きたいことがある。なので桂木はその提案を受け入れた。 二人並んで歩き、世間話から桂木は本題を切り出す。 「川村先輩と付き合う予定はある?」 「オオウヴァ!」 なぜか花咲は奇声を発した。急激に距離を取り顔を真っ赤にさせる。 「びっくりした……桂木君が恋バナを発するとは」 「僕としては君が発する奇声が驚きだ」 「てか私のプライベートに踏み込むの、あんましないじゃん」 「……どっちかというと郷田君のプライベートかな。彼が気にしてる」 「ふーん」 花咲はにやにやしだす。あの桂木が友達思いな行動をとっている、というのがよほど微笑ましいのだろう。 「川村先輩とは付き合うつもりはないよ。ていうかもう会うつもりもない。でも確かに借りはあって、もう会いたくないからコーヒーというお礼で何もかも終わらせてようとしただけ」 「そこまで嫌っているの?」 「嫌いっていうか、なんか気持ち悪い? って、生理的に無理とか悪口じゃなくて、なんていうのかな……」 思っているより、郷田が心配するような事は何もなかった。というよりは花咲がやけに川村を嫌っているのは意外だ。 助けられたからにはお礼はしなくてはいけない、しかしそれ以上関わりたくないから愛想笑いをしながら物で終わらせようとする。 「そうだ、不審者みたいな気持ち悪さなんだ!」 「……それはかなりひどい悪口では?」 思わず桂木は川村に同情した。助けたのに不審者のように思われるだなんて可哀想だ。 「いやいや、女子の言う『気持ち悪い』ってただの暴言じゃないよ。犯罪に巻き込まれかけた経験から来るものだから。なにかやらかしそうっていう『気持ち悪い』ね」 桂木も女子ではないが、その言葉は何かわかる気がした。例えば元担任の丹波だって、桂木の家庭事情を知った時に『気持ち悪い』と思った。表情、言葉、声音など、なにか良からぬことを考えているような雰囲気がある。実際丹波は人の秘密を探り、やってはいけない事をやっていた。事情を知る教師が弱みのある生徒をターゲットにしていじめを起こさせ、不満を教師に向けないようにする、なんてテクニックもある。桂木もそうなっていたかもしれない。 その『気持ち悪い』があったからこそ桂木は事件解決できたのだ。
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