役にたたない探偵

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■■■ それからクーラーのある場所でだらだら話していた中学生達は西日の一番きつい頃に帰ることになる。玉置は細川が送る事になっているし、勉強する野田もさっさと帰っていった。 「桂木君はおばあちゃん待つ? せっかくだし一緒に帰ったら?」 「いや、僕は先に帰るよ。せっかく楽しそうなのに、僕が待ってるとしたら早めに切り上げそうだ」 二人の祖母がいる客間からは笑い声が漏れ聞こえていた。盛り上がっているところに水はさしたくないと桂木も帰り支度をする。 「それじゃ」 「うん。今日はありがとう」 「僕は何もしてないよ」 少し前の、陰キャぶっていた頃のように桂木は返す。今回の事、自分がいなくてもそれなりの解決法を見つけられただろう。その無力感から感謝の言葉を素直に受け止められない。 桂木はもっと良い解決方がないかと悩みながら、蒸し暑い外に出て歩く。そして一つ目の角を曲がったとき、長く真っ直ぐな黒髪が目に入った。 「やあ」 キャップとTシャツとデニムショートパンツというずいぶんとラフな姿。そのためなかなかわからなかったが、キャップをとって黒髪とその端正な顔立ちを見ると思い出す。火野翔子だ。 姿を消したはずの火野が、確かにそこにいた。 「……火野さん」 「久しぶり、なかんじがするね。桂木君とはそんなに仲良くもないし、そこまで間が空いたわけでもないのに」 火野は上品な笑みを向けるが、桂木はどうして彼女が自分の前に現れたかわからなかった。しかしここが住宅街で、花咲の家に近いことに気付く。 「花咲さんに用事?」 「ストーカーしてるとこ」 「花咲さんの……いや、黒瀬蘭子のか」 「御名答。ま、普通に私の自宅周辺なんだけどね」 相変わらずよくわからない相手だが、芯はそこまで変わっていない。彼女は黒瀬蘭子に憧れ女優を目指す。花咲に関してはもう関心が失せている、と本人も言っていた。 「それにしても皆で集まってたみたいだね。野田君にタマちゃんに細川君……あれ? このメンツで郷田君がいないの?」 「君には関係ない事だよ」 「そう、関係ないね。だからグッチーに書き込んじゃおうかな。『今日みたいに郷田ハブった方が楽しいな』って」 桂木は最悪な気分になった。火野がそれをやるかどうかはわからないが、ここで無視するわけにもいかない。相変わらず嗅覚良く人間の心の嫌なところを当ててくる。今日、郷田抜きで考えたのは郷田のためなのに、そこを火野にひっかき回されるわけにはいかない。 しかしこの事は彼女には関係があるようでない話で、だからこそ話す事もできる。それにこの性格の悪さなら名案が思いつくかもしれない。 「君、川村先輩という人は知ってる?」 仕方なく桂木は今回の事について語りだした。
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