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はてさて、私の考えついたこの作戦は、案の定、上手くいった。都市と田舎に生まれた経済的な格差が、嘘の事業話に飛びつく村人を後押しし、私が村に入り込むことを容易にしたのだ。
この数年で、人知れず消滅した村が全国に幾つも存在するが、それらのほとんどがまあ、私の仕業だ。
おかげでしばらくの間、食料にも事欠かず、悠々自適な暮らしをさせてもらっている。
そうして鄙びた村々を巡り、村人を食い尽くしてはまた次の狩場を求めて旅をしていた私は、今回、〝鬼鳴村〟という小さな村を新たな標的に定めた。
鬼が鳴く……どうしてそんな名前がついたかは知らないが、なんとも親近感の湧く良い村の名だ。
見た目は特になんの変哲もない、よくある山間の貧しい寒村であるが、その名前からして、これは我ら鬼のためにある村だといわんばかりである。
「――皆さん、今、都市部では生活水準の向上により、広く嗜好品が求められております! 鬼瓦煎餅を作り、都市部へ送り出せば、必ずやこの村もその恩恵に預かれることでしょう!」
「まあ、そんなに儲かるんだったら、いっちょ話に乗っかってみんべ」
「んだなあ。町じゃデモクラセーだかいうので盛り上がってるってのに、うちの村だけ取り残されちゃんなんめえ」
私の口八丁な出まかせ演説に、集まった村人達が真剣な面持ちで頷き合っている……。
なんだか幸先のよい気分で村に足を踏み入れ、いつものように嘘の事業話を懇切丁寧に語ってゆくと、最初は詐欺師か何かだと疑っていた村人達も、次第に心を開き始め、思いの外、話はうまいこと進んでいった。
やはり、名前に〝鬼〟の字が入っているだけあって、私には大変縁起がいいようだ。
やがて、村人達はすっかり私の嘘話を信じ込むようになり、ついには私を囲んでの歓迎会まで開いてくれるまでに至った。
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