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「――ささ、ぐいっといってくだせえ。村で昔っから作ってる酒ですが、意外とイケるんですよ?」
「鬼辻先生はこの鬼鳴村の救世主だべ。どうかよろしくお願いいたしますだ」
囲炉裏のあるだだっ広い板敷の部屋で、村人達が私を囲み、徳利を手にしきりと地酒を勧めてくる。
会場となったのは、先祖代々庄屋の家系で、今は村長をしている者の大きな屋敷だ。
他にも一般的な村人達に混ざり、村で唯一人の医者の爺さんだの、村人達の精神的支柱となっている神社の宮司だの、やはり尊敬を集めている尼寺の庵主さまだの、この宴席には村の有力者達も一堂に会している。
村一番の有力者の家で、村挙げての歓迎会……またずいぶんと気に入られたものである。
ここまで信頼を勝ち取れば、後はもう行方不明になる人間が出ても私に疑いの目が向くことはなく、気づいた頃にはもう、全員私の腹の中だ。
目の前に立ち昇る白い湯気に視線を向ければ、囲炉裏にかけられた鍋の中では味噌とネギを入れた湯がぐつぐつと煮えたぎり、何か珍しい得物が罠にかかったので、その肉の鍋にしてくれるらしい。
……フン。愚かなやつらだ。自分達が罠に嵌められてるとも知らずにな……そうだ。この鍋のように、こいつらを煮て食ってやるのもまた一興だな……。
「……ジュル…おっと! ……グビっ…」
そんなことを想像すると思わず涎が垂れてきて、私は笑いの込み上げる口元を袖で拭うと、誤魔化すようにして注がれた酒を一口で呑み干した。
「おお! いい呑みっぷりですな。ささ、どんどんやってください」
その姿を見て、村長が再び盃に酒を注いでくる。
「ああ、すみません。それじゃあ、ご遠慮なく……グビ…グビ…」
また私は盃を口に持ってゆくと、それも躊躇いなく一気に呷った。
素人が作っているものにしては、確かにこの酒はなかなかにイケる。勧められれば際限なく呑んでしまいそうだ。
これで、人の肉でも肴にあれば最高なんだがなあ……。
そう思い、またも涎が溢れてきそうになった時だった。
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