泣いた鬼(※注 感動しない方向です)

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「明治の文明開化以来めっきり減ってしまったが、久々に良い鬼が手に入った……我らは遠い昔より、鬼の肉を食ろうては不老長寿の力を得てきた一族でな。時折、そなたのように餌につられてやって来る鬼を捕らえておるのじゃ」 「わしは外から来た人間なんじゃがな。村の診療所に赴任して、初めてその事実を知った時には驚いたが、科学的調査をした結果、紛れもなくそれが本当のことであるとわかった……鬼の肉に勝る妙薬はなし! おかげでわしもこの歳にしてこんなにもピンピンしておる」  なおも動かない身体を動かそうと藻掻く、私のその疑問に答えるかのようにして、今度は神社の宮司と医者がその答えを語って聞かせてくれる。 「〝鬼鳴村〟という村の名は、本来、〝鬼が()く〟、あるいは〝鬼が居()くなる〟ことからきているらしい……その名の通り、この村に入った鬼は二度と生きては出られん」  続けて、二人の話をまとめるかの如く、この村の名前の由来まで村長が教えてくれた。  ……なんということだ……この村は、〝人を喰らう鬼〟とは真逆の、〝鬼を喰らう人間〟達の村だったのか!?  つまり、彼らは騙されているふりをして、反対に私を騙していたということか……そして、私が油断するように誘導し、まんまとこのような罠に……。 「まあまあ、ようやく獲物の準備ができたようですわね。それじゃ、お待ちかねの鍋にいたしましょうか」  奢り高ぶっていた自分の愚かさに今さらながらにも深く後悔の念を抱いていると、今度は台所へと続く引き戸が静かに開き、よく研がれたギラギラと光る出刃庖丁を片手に、場違いな笑顔を浮かべながら村長の奥さんが入ってくる。  ……鍋? ま、まさか、この囲炉裏にかかっている鍋は私に出すためではなく、私を食べるためのものだったのか!?  身体は相変わらず動かせぬまま、震える眼だけで湯気の立つ鍋を見つめ、新たにわかったその事実に私はさらなる恐怖を覚える。
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