泣いた鬼(※注 感動しない方向です)

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「ああ、さっそく鬼鍋にするべえ。いやあ、ほんと鬼の肉なんて久しぶりだなあ……ジュルリ…」 「いやあ、想像するだけで生唾が溢れてくるだよ……ヘヘヘヘ…」  一方、まるで〝安達ヶ原の鬼婆〟が如き出刃庖丁を煌めかせた奥さんの登場に、村長を筆頭とした村人達は全員、私を見つめながら涎を啜り始めている。  皆、私のことを食材としてしか見ていないのだ……私はずっと人間を食料として見てきたが、自分が食物として認識されるのは初めてだ……。 「さあさあ若い衆、この鬼を台所に運んでくれ。新鮮な内にさばいて、血抜きをしなきゃ味が落ちるべ」 「へい! みんないくぞ? よっこらせっと!」  予想だにしなかったこの展開に、驚きと恐怖に支配された私の動かぬ身体を、村長の呼びかけに若い男衆が持ち上げ、再び戻る奥さんについて台所へと運んでゆく。 「味が落ちないようシメずに(・・・・)調理するから、ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね。すぐに美味しい鍋にしてあげるから」  そして、巨大な(まないた)の上に仰向けに寝かされた私を見下ろし、変わらぬ朗らかな笑顔を浮かべた奥さんが、大きく包丁を振り上げながらそう声をかける。  泣くことなどもう何百年ぶりだろう……動かせぬ身体同様、閉じることもままならないその瞳から、私は一筋の涙を流した……。 (泣いた鬼 ※注 感動しない方向です 了)
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