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亡者は復活を知らせない
炎坂は、私がやさぐれた不良娘だったころの知り合いだった。
小さな暴走族の頭だった炎坂は、一匹狼の走り屋だった私としばしば小競り合いを繰り広げていたが、決して暴力に訴えることはしない男だった。
やがて無謀な走りをひっこめた私は夜の店で働き始め、同じように族を解散させて料理人となった炎坂と再会した。
気が強く、夜の世界の住人たちとたびたび衝突していた私は、炎坂に「正面から立てつくな。我慢できないことは俺に言え」と自慢の料理を振る舞いながら諭されることが何度もあった。
その後、夫との出会いでようやく他人を許せるようになった私は、炎坂とも戦友のような気の置けない関係となった。だが、そんな穏やかな時代は長くは続かなかった。
結婚式で起きた事件は私の古い知人たちに、夫婦を襲った理不尽な悲劇として伝えられ、私は彼らに取っていまだに『死者』のままだったのだ。
※
結局、炎坂とはろくな会話もできぬまま、私は店を去った。
私は予定通り黒羽のオフィスを張ることにした。黒羽には密かに超小型GPSを取りつけてあり、居場所は完全に把握することができた。私の目的は黒羽が『プロフェッショナル』とどこで接触するかだったが、黒羽の『表の顔』を知って置くことは決して無駄ではないというのがわたしの考えだった。
黒羽の仕事ぶりは精力的だった。
オフィスに詰めている時間は一時間もなく、常に居場所を変えては調査ないし相談をしているようだった。私は黒羽の現在位置を確認しつつ、メイクや服装を微妙に変えて敵の動向を探り続けた。
黒羽が仕事に一区切りつけたような動きを見せたのは、とあるビルから同僚と共に出てきた時だった。オフィスに戻るのかと思いきや、黒羽はビルの前で同僚と別れて単独で移動を始めたのだった。
私は位置確認をやめて目視による尾行を開始した。黒羽はしばらく繁華街を路地伝いに移動した後、小さなビジネスホテルの前で足を止めた。
私は近くの建物の入り口に身を潜め、黒羽の様子をうかがうことにした。やがてホテルの玄関から一人の女性が姿を現し、黒羽に声をかけた。
――デートか?
私は拍子抜けすると共に、思い直してもう少しだけ黒羽の動きを探ってみることにした。
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