闇を操るもの

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闇を操るもの

「……これはバーテンさん。彼女の身が心配で後をつけてきたのですか。……ご心配なくと言いたいところですが、私の邪魔をするおつもりなら、あなたも容赦はしませんよ」 「彼女をどうする気ですか」 「大したことではありませんよ。記憶の一部を消すだけです」 「記憶を消す?」 「おっと、答えるのはそこまでです。……お客さんの身を案じるのは結構なことですが、今はそれよりご自分の身を心配なさった方がよいのではありませんか?」 「なんだと?」  人物が含み笑いをした瞬間、私の中で再び警報が鳴った。私が本能の命ずるまま、反射的に伏せると、同時に何か大きな物体が頭上を掠めていった。次の瞬間、硬いもの同士がぶつかりあう大きな音が空気を震わせた。  恐る恐る顔を上げたわたしの目に映ったのは、横倒しの状態で街灯に激突している大型バイクだった。  ――あれが飛んできた?……まさか!  私は起き上がると、こちらを向いて不敵な笑みを浮かべている黒衣の人物を見据えた。 「私の不意打ちをかわすとは驚きました。どうやらただのバーテンさんではないようだ」  人物はそう言うと、右手を前に突きだした。その瞬間、私の中で警報と共に古い戦いの記憶が甦った。  ――この人物……『サイマーダ―』か!  私が咄嗟に身体をひねった瞬間、目に見えない圧が脇腹のあたりを通過するのがわかった。やはり念動波つかいか。ならばこちらも腹をくくらねば。私は袖口に手を入れると、もしもの時のために装着している武器に触れた。 「なるほどその身のこなし……私のような人間と一戦交えたことのある者の動きだ」  人物はそう漏らすと再び腕を突きだし、手のひらをこちらに向けた。私は先端に錘がついた超伸縮性ワイヤーを袖から引き出すと、人物に向けて放った。  ワイヤーが突きだされた手首に絡みつくと、それまで仮面のようだった人物の顔に怯むような色が現れた。 「これは……?」 「念動波を相殺する電磁波を出す『デス・ハーネス』だ。まさか彼女を追っていた人間が超能力者だったとは思わなかった」  私がワイヤーと繋がっているスイッチを押すと、人物が「ぐっ」と呻いて身を捩らせた。 「ワイヤーを外すか念動波を消さない限り、苦痛は消えない」  私がワイヤーを握る手に力を込めると、人物は「なるほど」と言っていきなり自分の手首をもう一方の手で掴んだ。 「こんな玩具にしてやられるとは……今夜はツキがないようだ」  人物は吐き捨てるように言い、自分の手首をつかんだ手をひねった。するとワイヤーが巻きついた手首が金属的な音を立てて外れ、真黒な断面が露わになった。 「サイボーグか?馬鹿な、精密機器の身体では電磁波で超能力が弱まってしまうはず……」  呆然としている私の前に、外された手首がワイヤーごと放りだされた。
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