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かけがえのないペアー
シャリシャリという二人の咀嚼音だけが部屋の中に響き渡る。テーブルを挟んで向き合って座る二人の間には、キレイに剥かれて爪楊枝を刺された梨。
昔から好きだった。隣のおばあちゃんが「梨香ちゃんたんとお食べ」そう言って渡してくれた梨が一番の好物だった。
目の前の想太が最後の一切れを素早く掴み、口へと放り込む。そして、噛み砕き飲み込む。ごくりと飲み込んだ音まで耳に響くようだった。
「梨香」
「ん?」
先ほどからの沈黙がなかったかのように、ドキドキと心臓が脈打つ音が響く。
「愛してる」
月並みな言葉に、「らしいな」なんて言葉が漏れそうになる。想太のほっぺたは熟れたリンゴのように真っ赤で、言葉は梨のように瑞々しい。
「だから、俺と、その」
「ゆっくりでいいよ」
ここまでも、ゆっくりとやってきた。幼なじみだった二人が、恋人になり今、また段階を進めようとしている。恋人になるまでにも18年掛かったのだ。私はいくらでも待つ準備なんてできている。
「今がいい」
きらりと想太の瞳に光るのは熱意。
「梨花と離れてるのは嫌だ。離れて待ってるなんて俺、寂しくてできない。だから、だから。まだ働き始めて日は浅いけど、頑張るから」
「うん」
「俺の苗字になってください」
「はい」
最初から答えは決まっていた。私だってそうだと離れるのは寂しくて嫌だ。転勤の相談があった時に真っ先に想太のことを考え込んでしまった。
「え」
「ん?」
「だって、そんなあっさり」
「ふふふ。想太が言わなかったら私が言おうと思ってたよ」
金魚のように口をパクパクと動かして想太が酸素を吸い込む。
「え」
「気持ちは一緒だったってことかなぁ」
恋人のようなドキドキ感は、今更ない。それでも、想太の隣はとても心地良くて暖かい。微睡んでいるお昼のようだ。
「それに、想太のおばあちゃんの梨、大好きだから」
「そこ?」
「ううん。想太を愛してるからだよ」
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