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りんごジュースは分け合って
「てっちゃん!」
今日もてっちゃんはすごくかっこいい。元々、中身はとてもとてもかっこいい優しい人だった。美梨ちゃんに失恋してからもっとかっこよくなったと私は思う。
読んでいた本から顔を上げてこちらをてっちゃんが見る。ソファにもたれかかって読書してる姿すらサマになる。
「ん? どうした、優」
優しい人になるようにと名付けられた優という名前が私はとても嫌いだった。それでも、てっちゃんの呼ぶゆうという響きが今はとても好きだ。
「先生たち元気かなぁ」
「少なくとも美梨くんは元気だぞ。あと、先生もほら」
ぽんっと投げ渡された本を慌てて受け取る。「りんご飴の君」というタイトルの本。著者名をしげしげと眺めれば、先生の名前でつい微笑んでしまう。
「美梨ちゃん、泣いてない? 元気にやってる?」
「あぁ、新米教師としてがんばっているよ」
「支えてあげてね、先輩」
茶化すように先輩といえば、てっちゃんは胸を張ってドンと叩く。てっちゃんは優しい人だから心配はしていないけれど。
「あの2人もついに結婚かぁ」
「長かったな」
「長かったね。先生が逃げたからね」
ぽいっと私も本をてっちゃんへと投げ返して、ガラスで作られたお揃いのコップを食器棚から取り出す。
「逃げたからなぁ。でも、結局丸く収まってもう夫婦だろう」
「よかったよね美梨ちゃん」
「あんなにギャンギャン泣くとは思わなかったけどな」
てっちゃんのクスクスという笑い声に私も笑ってしまう。リンゴジュースをコップに注ぎながら、お腹の動きを感じとる。
「あ、てっちゃん! 動いた!」
「本当か!」
すかさず私のところまで来て、お腹を優しく撫でて耳を当てる。幸せだなぁ。
親になるだなんて、親になれるだなんて、思ってもなかった。家族には苦い苦い思い出がついて回っていたし、怖かった。
「パパだぞ。元気に生まれてくるんだぞ」
「ふふふ。女の子なら名前は、美しいってつくのがいいな」
「美梨くんから、か?」
「うん。キューピットだから」
私てっちゃんとなら、家族になりたいって思えたんだよ。でも、そこには美梨ちゃんっていう存在があったから。
「まぁ、俺も異論はないが。いいのか?」
てっちゃんの言葉の意味はわかる。私がアタックしてる最中も、てっちゃんの心の中には美梨ちゃんがいた。付き合い始めてからも美梨ちゃんがいたよね。
でも、私たちを繋げてくれて、私たちに幸せを運んできてくれたのは美梨ちゃんだ。
「私も、美梨ちゃん大好きだから」
それに、美梨ちゃんは私たちの大切な大切な後輩だ。美梨ちゃんと先生をくっつけるという2人の共通目標があったから、私たち2人は前よりも仲のいい恋人になれたんだとも思う。
「そうか。生まれたら真っ先に合わせないとなあの2人に」
「そうだね。ふふふ、楽しみ」
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