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飛べないキウイ
「キウイってさ、kiwiっていう鳥に似てるからキウイって言うんだって」
そんな言葉と共に、鳥の写真を見せられてから私はキウイが食べられない。どうしても、あの可愛い鳥が頭に浮かんでしまうのだ。食べようとすれば、気持ち悪くなってしまう。
──飛べない可哀想な可愛い鳥。
「また、キウイ食べてる」
軽蔑の目で、たっちゃんを見つめればたっちゃんは呆れたように、抗議するように、こちらへと顔を向ける。
「美味しいのに」
「だってキーウィみたいじゃん」
「ニュージーランドの鳥?」
「そう」
「毎回それいうよね」
聞き飽きたとでも言うように、首を振って手元のキウイにスプーンを差し込む。グリッと抉り取られた緑色の果肉が痛々しく見えてしまうのは、私の想像力が強すぎるのだろうか。
たっちゃんと、付き合ってもう3年。付き合い始めた時の甘い空気も、好きだった気持ちも薄れつつある。
それは多分お互い様で、たっちゃんも私ももうやめたいと思いつつも言葉に出せないだけだと思う。
「食べてみればいいじゃん」
「絶対むり、」
「食わず嫌い」
馬鹿にしたように鼻でふんっと笑う。その仕草がとても嫌い。ずるんっと中身を抜かれた毛羽立った皮は、薄っぺらくなってお皿の上に横たわっている。
これが、終わらせ時なのかもしれない。
後輩の女の子と2人でアクセサリーショップに入って行ったのを見た時も、なんとなくそんな予感はしていたんだ。
なのに、私はこの鳥籠から抜け出せない。飛べなくなったかわいそうなキーウィ。私も同じだよ。
お皿の上のペソっと薄くなった皮をポイッとゴミ箱に投げてから、たっちゃんが呟く。
「キーウィが可哀想だって毎回言うけどさ、なんで?」
「だって、キーウィは飛べないんだよ?」
「それが?」
「可哀想じゃない?」
「なんで、飛べないか知ってる?」
その言葉に、黙って首を振る。
「そうなって困らないから自分たちでそうやって進化したんだよ。人間が無理やりしたとかじゃなく」
「へ? そうなの?」
「ニューシューランドは天敵がいないから飛ぶ必要ないんだって」
キーウィは、飛びたくても飛べないんじゃなくて。飛ぶ必要がないから、飛べなくなったんだ。
あれ、それって可哀想かな?
「で、可哀想?」
「わ、わかんない。でも、キーウィに似てるからキウイを食べるのはむり!」
「そっかぁ、好きになってくれたら嬉しいんだけどなぁ」
そう呟きながら、たっちゃんはニヤニヤと笑う。
「な、なに?」
じりじりとにじり寄りながら、笑顔に狂気が混ざっていく。怖い、怖い、何?
「わっ!」
「わぁっ、ん……」
振りかぶられて驚いて口が空いた拍子に、飛び込んでくる何か。
「おいし?」
「美味しい、フルーツ?」
「キウィ」
「むり、だって、あれ、無理じゃない」
「よかったよかった」
もぐもぐと咀嚼すれば爽やかな酸味が美味しい。意外に食べてみれば、いけたのかもしれない。
「まぁそんなことはいいんだよ」
「ん?」
「結婚しよう」
「は?」
「やだ?」
「唐突じゃない?」
「もう今更じゃん俺ら」
それは、否めない。でも、後輩とのアクセサリーショップは……?
「最初は後輩について来てもらったけど、やっぱり俺が選ばなきゃと思って1人で買いに行き直しました受け取ってくれますか?」
差し出されたのは綺麗な銀色に光るリング。なんだ、私も飛ぶ必要がないから飛べなかったのか。
「よろしくお願いします」
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