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とろけるピーチ
ゆうきさんは、とても大人だ。いつも助手席に乗ってる私に気を遣ってお店を選んでくれる。
それが少し不満だ。
「はい、ピーチジュース」
優しく渡されたジュースを受け取って、吸い込む。甘くて酸っぱくて、なんだかゆうきさんみたいだ。
実は、桃はあんまり好きじゃない。
でも、いちごよりも大人っぽくて、ぶどうよりも可愛い気がする。だから、ゆうきさんの前では必ずピーチ味を選ぶ。
20歳を超えて成人してるから大人のはずなのに、ゆうきさんは私のことを相変わらず子供扱いして揶揄う。
私は、早く大人になってゆうきさんと肩を並べたいのに。
悩んでいる私の頭をぽんぽんっと優しく撫でてから、ブラックコーヒーを一口飲み干す。その仕草すら、大人っぽくて悔しい。
じぃーっと横顔を見つめてれば、大きな温かい手で目を塞がれる。
「見過ぎ」
「ダメですか?」
「有料でーす」
ちっと聞こえるように舌打ちをすれば、乾いた笑い。
「女の子なんだからさ」
「女です」
「女の子だよ」
その言葉、一つが胸を痛める。やだ。私は女の子なんかじゃない。大人の女として見られたい。
髪も伸ばして、大人っぽくしてみた。
服装だってちょっと背伸びをして体のラインが出る服にしてみた。
何をしても、ゆうきさんは私のことを子供子供と言うのだ。これ以上どうすればいいの。
「じゃあ、次どこ行こっか?」
「どこでもいいです」
「拗ねたの?」
「だって、ゆうきさん子守してるようなもんでしょ」
ぷいっと顔背けて、唇を尖らせる。こういうところが、多分子供なんだ。
「実紀」
優しい声と裏腹な強引な手に、顔を無理やりゆうきさんの方へと向かされる。私の抵抗は全く意味をなさなかったらしい。
「何すねてんの?」
ぱちりと合った視線が辛い。
「私もう成人してます」
「そうだね。誕生日祝ったからそれくらい知ってるよ」
「大人の女です」
「俺にはまだ」
言いかけた唇を奪う。
「それでもって、ゆうきさんの彼女です」
躊躇わずに言い切った言葉に、今度はゆうきさんが顔逸らした。私の顔を無理矢理向かせたくせに。
体ごと乗り出して顔を見つめれば、情けない表情をして赤く固まった顔。
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