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ぶどう味のあいす
「暑い! 溶ける!」
梅雨が明け、30度近い日が続いていた。アスファルトに太陽が反射し、上からも下からも太陽の光に当てられる。
「はいはい。大学の方は最近どうなの?」
呆れたように笑いながら近況を聞いてくるお兄ちゃん。アイスコーヒーを飲みながら涼しげな顔をしているのが気に入らなくてコーヒーを奪い取る。
「にがい……美味しくない……暑い……」
一口飲めば、コーヒーの苦さに顔をしかめてしまう。コーヒーの苦さの良さがわからない。
「俺の質問に答えないし! まだまだお子ちゃまには飲めないお味となっておりまーす!」
はははっと笑いながら、コーヒーを奪い返される。
「涼しいとこいきたーい」
「じゃあ、家に帰るか」
「それは嫌。帰りたくない」
困らせてしまうのを分かった上で、お兄ちゃんの横顔を見つめる。困ったように笑いながら、にこやかに返して来る。
「そういうこと気軽に言わないの。俺の家に来る?」
お兄ちゃんの家まで、ここからなら歩いて10分もかからない。久しぶりにあったのだからまだ帰りたくない。
まだ話していたい。
私が大学生になって、お兄ちゃんは社会人になって、なかなか会えないことが増えた。幼馴染という関係だけで、会うのは難しくなってきた。
「行くー」
間延びした声で答えれば、はいはいと笑いながらお兄ちゃんは手を取って歩いてくれる。
家までの道のりはたわいないことを話して
笑いあっていた。
こうしていると、昔に戻ったみたいだ。
「はい、とうちゃーく。先に手洗っておいで」
リビングを片付けながら、子供に指示を出すように話しかけて来る。
「ちゃんとキレイにしてきたよー。やっぱエアコン最高! 涼しいねぇ」
「もう満足しましたか、お嬢様」
キレイな指、整えられたキレイな爪を見つめながら笑ってしまう。
「んー、まだ満足できないなぁ!」
お兄ちゃんの目の中に私がいる。
「はい。じゃあ、アイスでも食べて涼んでくださいませ」
キンキンに冷えたぶどう味のアイス。小さい頃からいつもこればっかり食べていた。2人で半分こって言ってポキンッと折って分け合って。
「懐かしい! 常備してるの? 私これ大好きー!」
「なー。いつも小さい時2人で半分こしてたもんな。はい、今日も半分こ」
私たちの関係は、あの頃から変わっていなくて。ただの、幼馴染。
アイスを受け取りちゅーちゅー吸いながら、
隣のお兄ちゃんを眺める。
あの頃より、ずっと伸びた背。あの頃より、開いてしまった距離。子供のままでは居られないんだなぁという実感ばかり大きくなる。
「なんて顔してんの。どしたの」
「もう子供じゃないんだよなぁって」
「なにそれ、どういう意味」
とか言いながら、お兄ちゃんは小バカにしたように笑う。もう子供じゃないよ。
「妹、みたいにしか思ってないだろうけど、私、お兄ちゃんのこと、きちんと好きなんだよ。ずっと、ずっと好きだった」
はぐらかさないで。誤魔化さないで。祈りにも似た気持ちでお兄ちゃんの目の中の自分を見つめる。あぁこまらせてしまう。泣きそうな顔をしている。
「大学にだってもっといい人いるだろ」
「お兄ちゃんしか、いないよ。お兄ちゃんがいい」
ポンっと、優しく頭を撫でられながらお兄ちゃんの顔をまじまじと見つめる。あぁ、そんな優しい目で私のことを見ていたんだ。
ハッとする。その目の意味は? 妹? 好き? どれ?
「最初は、心配で目が離せないとか、妹だとかしか思ってなかったけど」
「待って、待って」
「好きなんだよなぁ」
涙が溢れて止まらなくなってしまう。すき。が、涙に変換されてポロポロとこぼれ落ちて行く。
「相変わらず泣き虫だなぁ。まったく」
涙をぬぐいながら、お兄ちゃんは私に笑顔を見せてくれた。
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