メロンソフトクリーム

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メロンソフトクリーム

 私の前にあるのは、半分に切られたメロンの上に、綺麗に巻かれたソフトクリーム。こんなに贅沢をしたのは、自分の時間を取れたのは、いつぶりだろう。  メロンは艶々とオレンジ色の光を放っている。ソフトクリームがうっすらと溶け始めており、メロンに白い膜を作る。  そっとオレンジ色の果肉にスプーンを差し込めば、果汁が溢れ出て夕焼け空のような絵を描き始める。口に運べば、甘いとろけるような幸せが口の中に広がる。  私の贅沢な、ゆっくりな時間はここまでで。いつもの怪獣が私の時間を邪魔する。 「ママ〜! 1人で食べてずるい!」 「たっくん。メロン食べれないでしょう」  優しく諭す悠介の目は、明らかにメロンを狙っている。 「たっくんが飽きちゃったのかな」 「うん。ママのとこ、帰る! って。それに俺も寂しくなっちゃって。ごめんね」  眉毛を下げながら、シュンと落ち込んでる表情を見せる悠介。 「仕方ないね。メロン一口食べる?」  スプーンいっぱいに広がるオレンジと白。たっくんを抱き上げている雄介の口元に運んでやれば、嬉しそうな笑顔を見せる。 「なんか、夕焼けみたいだね」  その一言に、悠介を好きになった日々を思い出した。感性が似ていたのだ。 ▽  始まりは、SNS。 「どちら様ですか?」  そんな言葉が一番最初のやりとりだった。高校の友達しか、フォローしていないSNSに見覚えのないアイコンが追加されていた。ページを見てみれば、空の写真や漫画の話がずらっと並んでいる。 「YUと言います。フォローされたので返したんですが……」  私が間違って、フォローを押してしまっていたのだろう。間違って、から始まったやりとりは思いの外楽しくて同じ感性を持つYUさんは私の良き相談相手になっていった。 ▽ 「今日も学校の宿題めんどくさいなぁ」 「俺も、今から大学の課題! お互いがんばろ」 ▽ 「こんなに綺麗な雲見つけたの!」 「本当だ。なんか、わたあめ食べたくなってきたな」 「私もわたあめっぽいなって思ってた」 ▽ 「また、お父さんに殴られた」 「大丈夫?眠れるまで電話しようよ」  やりとりを何度も、2年間近く続けた時には私は大学生になっていて、悠介は社会人になっていた。会ったことも顔も見たこともない友人。けれど、私の中では確かに大切な人になっていた。 「今度の三連休。北海道行くから1日遊ぼうぜ」  不意に舞い込んできた知らせに、心臓が脈打つ。  初めて会った悠介は、とても優しい人で、想像よりもイケメンだった。会って初めて言われた一言はメロンのこと。 「俺、フルーツの中でメロンが1番好きなの。夕張メロンをまるまる一個食べてみたくて」  私より年上なのにずいぶん子どもっぽいことを言うな、何で笑ったっけ。2人でメロンを買い込んで、大通り公園のベンチで半分にだけ切って食べ始めた。2人2玉買ったメロンは流石に1人、半分が限界で1玉余ってしまった。 「じゃあ、また明日一緒に食べる?」  1日だけの約束をメロンのために延長する。まぁそれは口実で私がもっと一緒にいたかっただけなんだけれど。後から聞けば、悠介も同じ考えだったらしくわざわざ2玉メロンを買った、とのことだった。 ▽  初めて会った時のことを思い出しながらメロンを頬張る。 「俺にももう一口」 「たっくんも! 食べる!」 「じゃあ、たっくんはソフトクリームだけね、はい」  食べさせてあげれば、たっくんはニコニコと笑う。 「ってか、何にやけてんの?」 「うーん、初めて会った日を思い出してた」 「あぁ、なるほどね。俺もメロン見て思った!」  キスをしそうなほど顔を近づけて笑い合えば、たっくんが2人を押して邪魔をする。 「たっくんのまま!」 「俺の奥さんなんだけどなぁ」
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