シャインマスカットの笑顔

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シャインマスカットの笑顔

 君の笑顔は、太陽だ。  そんなありきたりな告白じゃきっと君は満足しない。  クラスのマドンナ…高嶺華子(たかねかこ)さん。あだ名は、かこちゃん。  黒い腰まである艶々の髪の毛、現世を憂いてるような伏し目がちな瞳。色白な肌、真っ赤に染まる頬。頭もとても良くて、学年3位以内には必ずランクイン。  そしてとても優しく、僕みたいな陰キャにも挨拶をくれる。マドンナの仕草は、どれもこれもため息が出るほど美しい。  マドンナを見れば見るほど、色々な言葉が浮かんできて僕はメモをし続けている。 マドンナは、相当モテるらしく(当たり前だ)毎日数十人の男子に至るところで告白されているのだ。今のところ全てを断っているらしい。 「ごめんなさい。そんな告白じゃ受けられません」  影から見つめることしかできない僕のような陰キャと違って、陽キャのやつらは毎日当たって砕けている。噂に聞いた告白文句は…… 「君の瞳に恋してる!」 「愛してます! 結婚してください!」 「君が本当にすきなんだぁああああ!」 「月が綺麗ですね」 「君かわうぃーね! 俺とラブラブしない?」  などなど多岐に渡っているが、どれもダメだったらしい。  噂だからどんな感じかは、知らないがフラッシュモブをした人すらいたらしい。  マドンナを観察しながら、お弁当を食べ進める。マドンナは友人たちと話に花を咲かせていて、可愛らしく一口ずつおにぎりを食べていた。長い髪を耳にかける仕草が素敵だ。ノートを取り出しメモをする。  マドンナの素敵リスト。と表題が書かれたノートはもう、50ページくらい書き出されている。  デザートのシャインマスカットを、シャクっと噛み切れば甘い香りが広がった。一瞬だけ、マドンナがこちらを見ていたような気がした。けれど、まぁこんなインキャを見るわけもない。僕のいつもの勘違いだろう。  マドンナの事を後ろから見つめていれば、友人たちと笑い声を咲かす。ノートにもう一つ書き足す。 「シャインマスカットのように甘い笑い声」  横を向いて笑うマドンナの笑顔が目に入る。 「マドンナの笑顔はシャインマスカットのように輝いている。(太陽とかけてみた)」  僕のノートの文字は、数分でどんどんと埋め尽くされていく。 ▽  下校準備を終えて、そそくさと家へと帰る。やはり、今日の授業も僕の頭には入らなかった。美しいマドンナの仕草ばかりが僕の頭を埋め尽くしている。  ふと、マドンナの素敵リストを教室に忘れてきた事を思い出して踵を返す。あれを見られたら、明日からの僕はもう学校に居られない。息切れを起こしながらも教室にたどり着けば……  僕の席には、マドンナがいた。  僕に気づいたマドンナが微笑んで、朗読を始める。 「黒い艶々の髪は、まるで夜の空のようだ」  慌てて取り返そうとすれば、逃げ回りながらマドンナは朗読を続ける。 「マドンナの笑顔はシャインマスカットのように輝いている」 「や、やめてくれ!」  そう懇願すれば、マドンナは冷たい視線を浴びせる。冷たいシャワーを浴びたように、僕の体が体温が失われていく。 「これって、私のことだよね?」  鈴の音が鳴ったような淡い声に、心臓が飛び跳ねる。 「う、うん」 「直接言ってくれないの?」  マドンナへと視線を向ければ、黒い瞳に吸い込まれそうになる。 「君の瞳に吸い込まれそうだ!」 「ふふふ」  猫のようにしなやかにマドンナは伸びをして、微笑んだ。 「かこって呼んでいいよ?」 「え?」 「あれ、愛の告白じゃなかったの?」  話についていけず、目を丸くする。どく、どくと心臓が脈打つ音だけが教室にこだまする。 「え、えっと」 「答えはイエスだよ。自称陰キャくん」  そんなマドンナの一言に、僕は気絶しそうだった。
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