尊し青に泣く

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「咲良ちゃん。夢はね、寝てるときに見るもんだよ」  子供には夢を描いてほしいと思うのが常だろうが、祖母は違った。  女優になりたいと言った小学生のわたしに、夢を夢で終わらせないための努力とか、姿勢についてシワシワの優しい手でわたしの右手を握りながら話した。  夢っていうのは目が覚めてお布団から出た頃には「目標」になってなきゃいけないんだと。  蚊取り線香を膝下に、夏休み、夕焼けの縁側で。  大好きな女優さんがドラマの中で、カタカナだらけでちんぷんかんぷんな医療用語の台詞を連発しているのを見てから、こんなに台詞を覚えられない、と女優になることをあっけなく諦めたのが中学生の頃。  女優になりたいという夢は何度起きても目標になることはなかった。  それからも、わたしの中で何かが夢から目標になることはないまま、大学に入学して同じクラスの成川と出会った。
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