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僕は自転車で日本縦断の旅をして、最終目的地である鹿児島に半年かけて到達した。ここまで来るのに、様々な人に世話になった。岬で夕日を見ていると、1人の中年の男性が僕に話しかけてきた。僕が自転車で日本縦断してきたことを知ると、今日の夕飯をご馳走してくれ泊まる所まで手配してくれた。
帰ってから何かお礼がしたいと言ったが、その人は何もいらないと言って連絡先を教えてくれなかった。
「どうしてこんなに見ず知らずの僕に良くしてくれるんですか?」
僕は不思議に思って聞いた。
「俺も昔、見知らぬ土地で全然知らない人にすごく良くしてもらったことがあってね、その時の俺も今の君と全く同じことを言ったんだ。何かお礼がしたいから名前と連絡先を教えてくれって。だけどその人は何も教えてくれなかった。お礼なんていらないって言うんだ。でも、どうしてもお礼がしたいって言うなら、君も僕と同じことを他の誰かにしてあげて欲しいって言われたんだ」
そういうと名前も名乗らずに去って行ってしまった。僕はもう二度と会えない名前も知らない優しい人に手を振っているうちに、何故か涙が出てきた。
僕もいつの日か、今日の彼の優しさを知らない誰かに返そう。
僕の旅は終わったけど、この優しさの連鎖はずっと続いていくはずだ。
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