七夕

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「今夜は七夕ですね・・・でも天気は全国的に今日は雨でしょう」 今日は七夕だ。年に一度しか会えない彦星と織姫は強い絆で結ばれているんだなと感心してしまう。あたしは、年に一度しかあの人に会えないのは耐えられないと思った。 子供の頃短冊に書いた願い[七夕の日に星空の下で大好きな人のお嫁さんになって幸せになりたい]子供の頃から恋愛体質で、好きな人には振り向いてほしくて、愛してほしくて、ただ幸せな人生を歩みたかった。現実は満員電車に揺られて、パソコンに向かい伝票を打ち込む、仕事というより生きるためにそこに居るだけの存在しか見いだせなくなってた。 「吉川さん、これまた間違えてるよ、数字もまともに打ち込めないのか君は」上司の言葉に少しだけ悔しさを感じながら「すいません、すぐに直します」心にも思ってない上辺だけの謝罪を口にする。こんなつまらない生活にも慣れた。 東京に出てきて、1Kの少しだけ高い家賃のマンションに、自分好みのインテリア、休みの日には好きな時間に起きて好きなことを一日する、そんな生活を望んで出てきたのに、時折寂しさを感じる。東京での暮らしは、強気に生きてた私の気持ちを打ちのめすのはたやすい感じで、いつの間にか“都会”に染まっていってた。 東京に出てきて、慣れない仕事や一人暮らしをする中で、恋もした。 いつも会社帰りに寄る本屋のバイトの彼。優しくて、何を話しても「そうなんだね」と相打ちがうまい彼だった。でも彼のやさしさの裏の顔を知ってしまった。浮気現場を見るなんて、そんなのドラマの世界だけかと思ってた。気持ちとは裏腹に衝撃は大きかった。 浮気現場を見たことよりも、彼に笑顔で言われた一言が今も心に残っていた。「浮気をしてたんじゃない、僕の都合のいい女だっただけだよ。それに、来月結婚するんだ。」彼の少しだけ意地悪な笑顔に「そうなんだ、おめでとう」精一杯私なりの強がりだったのに、「星蘭も幸せになってね」そう彼は告げると、いつものように頭を撫でて私のもとを去って行った。 「あれから4年か・・・」満員電車の中、窓の外の月明かりの綺麗な景色を見ながら、少しだけ胸の奥がきゅっと苦しくなった。
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