<1st・Norman>

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 アラステアは己が勤勉で、この一族の使命に歴代当主達にも負けないほど誇りを持っているという自負があった。いずれバートン家唯一の男子として父の後を継いで、バートン一族にさらなる繁栄を齎すことこそ自分の己の最大の使命と信じて生きてきたのである。それがまさか、自分が当主になるよりも前に、このような危機が一族に訪れようとは。百五十三代も続いた一族を、このようなところで耐えさせるようなことなどあってはならない。父にはなんとしても、国王の期待に応える成果を見つけて貰わなければならなかった。  だが、一週間もの間、父は書斎に閉じこもって呻くばかりで、ほとんど研究を進められている気配がないのである。  無理もないことではあった。そもそも、ミライダイト鉱石を人工的に作り出すことがどれほど至難の技であり、歴代のバートン当主達がどれほど苦心してきたかは言うまでもないことなのである。  鉱山に行って鉱石を掘るのは危険が伴うが、それでも確実な方法であることに違いはなかった。その確実な方法が使えなくなってしまったのは、ひとえにアス王国が帝国を侮り、みすみす鉱山を敵国に明け渡してしまったからに他ならない。その尻拭いをするため、父も祖父も血眼になって錬金術による錬成を試してきたのである。鉄鉱石、翡翠、金剛石、石灰岩。様々な意思を魔術で溶かして混ぜ込み、秘術を持ってしてミライダイト鉱石に変える。それが可能なのは長年秘術を受け継いだ、錬金術師と呼ばれる一族のみであるのだった。  問題は。その“代替素材”でさえ、近年は不足してきているということだ。  今まではどうにか苦労に苦労を重ねてミライダイト鉱石を、少量ずつとはいえ王国に提供できていたのだが。ここ最近は金剛石の価値が上がってしまったせいで、それも叶わなくなりつつあった。金剛石に、宝飾品としての価値を見出す王族貴族が増えてしまい、石を錬成の要として使うことが殆どできなくなってしまったのである。
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