<1st・Norman>

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 代わりの素材を探し続けるも、見つけることができないまま過ぎてしまった数年間。国王からせっつかれて今、バートン一族は崖っぷちまで追い込まれている状況だった。早くミライダイト鉱石を作れと追い詰めるくせに、国王陛下ときたらもう金剛石は使うなとも命令してきている始末なのである。一体どうすればいいのか、と父は長年背負ってきたバートン一族の歴史と責任に押しつぶされそうになっているところなのだろう。 ――僕が、なんとかしなければ。  アラステアは奮起した。この家を守るために、自分に出来ることは何でもするという覚悟があった。そのためには、管理が行き届いておらず、危険な書物が山ほど眠っているとされて封印されていた――屋敷の地下書庫に足を踏み入れることも厭わないと思うほどに。  百五十三代続いたバートン一族を支えたのは、長年当主達が堅実に積み上げてきた秘術の知識があったからに他ならなかった。  魔力を使って王国を支える仕事は数多く存在する昨今。中でも、錬金術師という仕事は魔術師や幻術士より長くこの国に存在し、繁栄を助けてきた誇り高い職業である。多くの鉱石の性質を変えることにより、毒を薬に変え、価値のない石を宝石に変え、あらゆる兵器の原動力となるミライダイト鉱石を作り出すという偉業を成し遂げてきたのだ。  それは歴代のバートン一族の当主達が、皆々揃って研究熱心であり、その知識を代々子孫に引き継いで来たからに他ならなかった。錬金術師は魔法使いであると同時に、血と涙と努力を積み重ねる研究者でもある。ただ、そうして長年研究を重ねれば必然的に、“本来人は知りえない方が良いこと”までその知識欲の手を伸ばしてしまうことも多々あるわけなのだ。死者を蘇らせる方法や、私利私欲のために人をバレないように殺す方法、などがそれに当たるとされている。  そういった禁じられた研究は全て地下の書庫に保管され、当主以外がけして立ち入ることがないようにと厳重に封印を施されてきたのだった。当然、アラステアも父から、自分が当主になるまでは絶対に入るなと言われている。それは危険な書物が多いからもあるが、ろくに掃除もされていないし管理もされていないので、部屋そのものが倒壊したり不衛生だからというのもあるらしい。実際、アラステアが地下の階段を降りた時、その扉は固く南京錠がかけられ、酷く錆び付いた有様となっていたのだった。
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