<1st・Norman>

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――……父上。確かに、触れてはならぬ禁断の書庫であるのはわかりますが。だからといって、掃除もしないというのはどうなのでしょう?  真っ黒な扉の前に立ったアラステアは、手に持った鍵がまったくの無駄であったことを悟った。錆びた南京錠は鍵を開けるまでもなく、錆び付いて今にも外れそうになっていたからだ。 ――禁断とはいえ、此処もまた長年の当主様が丁寧に積み重ねてきた知の泉であることは間違いなく……大切に保管すべきと思ったからこそ、こうして存在しているはずだというのに。不衛生なままにしておく方が、御祖父様方へ失礼にあたるのではないでしょうか。  確かに、人間は掃除をしようとすると、その場にある本をついつい読んでしまうイキモノではある。読むことさえも危ないとされるような書物の類ならば、掃除という名目であっても近づかないのが無難であるという考え方は理解できなくもないが。  階段に降り積もった砂をブーツで払いながら、アラステアは南京錠へと手を触れた。瞬間、まるでアラステアが触るのを待っていたかのように、錆びてボロボロになった南京錠は外れてぽろりと床に落下してしまう。これは自分が壊してしまったことにはならないだろう、とため息をついて、ゆっくりと扉に手をかけた。  黒い鉄扉は重厚な存在感を放っている。まだ幼い自分の腕力で押し開けられなかったらどうしようと思ったが、幸いにして見た目ほど重たい扉ではなかった。ゴゴゴゴ、と重たい音を立てて開いていく扉。限界まで扉を開いたところで――アラステアは中の異常に目を見開くことになるのである。  この禁断の英知を詰め込んだ書庫は、父どころか祖父の代でさえ一度も踏み入っていないと聞いている。南京錠が取り替えられる気配もなく放置されていたことから察するに、書庫へ近づくことさえしなかったと考えるのが正解だろう。つまり、何十年分の埃と砂が、この石造りの書庫には大量に溜め込まれて然るべきであるはずなのだった。残っている本や本棚も虫食いだらけになっていて、読める本は殆ど残っていないかもしれない――それくらいの状態をアラステアは覚悟していたのである。実際、大量の砂が積もった階段は、ここ数年誰も降りていないことを証明していた。  それなのに。 「な、何故……!?」
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