眠りつく部屋

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クローゼットに山積みにされた歴代のゲーム機たちは使えるものばかりだと言っていた。立て掛けられたギターの音色は聞いたことがない。 1年前。父は突然、断捨離をはじめた。もういつ死んでもおかしくないし、お前にゴミを残せないからなと笑っていた。みるみると物は減っていった。 これ面白いぞとか、この子かわいいぞとか、よく見せられた動画配信サイトを含め、趣味の数だけあったSNSのアカウントも次々と削除していったようだ。知り合った人達さえも、もう過去にしてしまうつもりだったのか。 唯一小説を載せた所だけは残したようで、教えてくれた初めての作品から一覧へ飛ぶと、今でも読む事ができた。 見回している内に、網膜に張り付いた陰影は次々と消え、やがて空っぽの部屋だけがあった。まさかこの日が分かってて終活していた訳じゃないよな。声に出して部屋の中央に横たわる父に語り掛けた。 この小さな海辺の町を出る気はないと言って消えてから2年程して、口座にまとまった金額が振り込まれた。もしかしてと来てみると部屋が開いていた。最後に何かを残してくれたつもりなのだろうか。 きっと最後の我が儘(わがまま)だと笑うだろう。最後のお願いと最後の我が儘は、言い続けるもんだろ馬鹿。
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