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眠りつく部屋
父は多趣味な人だった。その部屋の片隅にあったスライド式の書棚には、奥に厳選された漫画が、手前には小説が並んでいた。固定された棚には映画のパンフレットに、アニメの設定集、画集、占いの本に、魔術だの快楽殺人だのといった怪しげな文字の浮かぶ背表紙までが、綺麗に並べられていた。
それらを手に取る事を許されたのは、物の扱いを知った中学生になってからだった。
いつも書類が乱雑していた木製のパソコン机の上にも棚が置かれ、音楽のCDに映画のDVD、ゲームソフトにマジックの道具などが、ジャンル分けされて並んでいた。
思春期と呼ばれる時期に、抽斗の中を一度だけ見た事がある。禁断の男性雑誌を捜索したのだが、小さな抽斗には幼少期にあげた折り紙だの手紙だのが入っていて、本命の大きな抽斗の中は紐でくくられた封筒の束と、日記らしきキャンパスノートの束だけだった。文字が幼いので学生時代の物だろうと思う。他に惹かれる物もなく落胆したのを覚えている。
向かい側の壁の隅にはフィギュアの入ったショーケースがあった。可愛いキャラクターというよりは、躍動感のある造形が多かった。残りは小さな穴が均等に空いた有孔ボードになっていて、多様なフックを付けサバイバルゲームの銃器コーナーと、アイドルグッズやフレームに入れたサイン入りポスターのコーナーとに分けられていた。さすがに55歳とは思えない部屋だった。
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