第26話:想定のななめ上からの影響力

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第26話:想定のななめ上からの影響力

 俺が知るゲームにかぎりなく似ているこの世界には、装備品の一種として、主に特効を付与するための『アクセサリー』なるものが存在する。  たとえば、あのゲームでは『変わり身の腕輪』といって、人間お断りのエルフの里に潜入するときに必要なイベントアイテムがあった。  それの効果は、ずばり周囲にたいして、装着した者の外見や匂いを誤認させる効果だ。  それなら俺の特徴でもある黒髪黒目ってところを、この世界にはよくある茶色と錯覚させることもできるし、匂いだって月花(げっか)燐樹(りんじゅ)ではない、汎用的な香水風に思わせることもできるだろうと思う。  ここら辺の効果は、アクセサリーに刻む術式をどうするかで、どうにでもなる部分だ。  あとは、『魔除けの首飾り』なんていう邪気だの魔力だののダメージを半減させる効果のあるアクセサリーなんてのも、あったはずだ。  それらを想定しながら、身を守るための策として、特効つきのアクセサリーで装備を固めることを提案した俺に、賛同したイケメン死神が持ってきてくれたアクセサリー類は、どう見てもオーバースペックなものだった。  もれ出る神気が半端ないことになっているのは、もはや気のせいでは済まされないレベルにしか見えない。 「まずはこれですね、魔力と邪気から身を守るためのアクセサリーです。さぁ、どれでも好きなのを選んでくださいねー!これなんて、どうでしょう?キミの黒髪によく映えると思うんですけどねぇ」  差し出されたのは、ギラッギラにかがやく金色の髪飾りとおぼしきものだった。  金色のチェーンに、半月状のプレートとジャラつく飾りが吊り下がっているようなデザインで、髪に留めるための櫛が両端についている。  くすみもなにもなく、すべてのパーツはまばゆいばかりの金色だ。  ひょっとしないでも、これはホンモノの金でできてたりするんだよな……??  この世界には金メッキという発想はないだろうから、おそらくそうだと思うけど、それにしても重そうだな……。  半月状のプレートには細やかな意匠が施されており、その隙間を埋めるように、これまたギラギラとかがやくゴツい真紅の宝石を中央に、大小様々な宝石類が配置されている。  お値段はすごいんだろうけど、正直なところ、成金趣味の下品なデザインにしか見えなくてドン引く。 「いやこれ、髪留めだろ?俺の髪は短いから、こんなのいらないだろ」  慎んでご辞退申し上げます、とばかりに突きかえす。  うん、手にしたときに思ったけど、かなり重かったから、やっぱりあれは本物の金塊だ。  そんなあきらかに高級そうなやつなんてつけてたら、むしろカツアゲとかされるだろうが!  身の危険を防止するためにつけるものが、かえって犯罪者を呼び込むとか、本末転倒だろ!? 「ハッ!たしかに!!つい、はじめてキミにあげるプレゼントだと思ったら、気合いが入りすぎました!」 「まさかとは思うけど……全部そんなのばっかりじゃないだろうな?」  思わず不安になって、たずねてしまった。 「あ、アハハ~……ダイジョウブデスヨ??」  おい、思いっきり目が泳いでんじゃねぇか!  しかもなんだ、その棒読みは!!  たぶん、神様だとか妖精だとかが祝福を付与するにしても、素材がどういうものかで、その乗せられる力が変わるとか、そういう理由なんだろうなぁとは思うけど。  たとえば特効のある武器を作るとして効果の高い祝福を乗せるにしても、安い混ざりもののある鉄素材の剣と、純度の高いミスリル製のそれでは、あきらかに乗せられる効果が異なるというのは、この世界での常識だ。  だからしっかりとした祝福を付与するには、それなりの素材を使用するべきだというのも納得してはいるんだけど。  でもいくら納得をしていたところで、今回提示されたものは、どう見ても装飾品として華美すぎるものだらけだった。 「こ、これなら宝石もひとつしかついてませんし、シンプルなほうですよ!」  そう言いながら差し出されたのは、ブローチだった。  たしかにイケメン死神の言うとおり、宝石はひとつしかついてない。  ……だけどな、真ん中に配置されているエメラルドっぽい緑の宝石のサイズ、それが何度見直してもデカすぎる。  子どものこぶしくらいの大きさがあるそれは、どこまでも深く澄んだ色をしていた。  全然目利きなんてできないけど、人工宝石とかのないこの世界で、これだけのサイズで、傷もなくて混じりけのない宝石がものすごい稀少だってことくらいはわかる。  買おうとしても、天文学的な価格がつけられるとか、なんなら値段はつけられないくらいの、そういう厄介な品物に見える。  というか、やっぱりこれも持ってたら、ふつうに強盗とかに襲われるんじゃないだろうか。  俺にはそんなに欲しいとは思えないものだけど、世のなかにこれを欲しいと思うやつらは、ごまんといるはずだ。  安全を求めるためにつけるアクセサリーで、反対に命が危険にさらされるとか、以下略だ。  そこら辺、ちゃんとわかってるんだよな……?  不安になってきたぞ、俺は。 「…………これも却下だな」 「くっ、負けませんよ!ならば、これはどうです!」  そう言ってイケメン死神が差し出してきたのは、金のネックレスだった。  おいおい、勝ち負けじゃないだろうが。  そうツッコミを入れようとして、口を開きかけ、そしてしばし固まる。  おいおい、なんつーもの持ってきてんだよ!? 「うっ……これは……」  これだ、これが問題の神気があふれる原因になっているやつだ。  そしてコイツが帰ってきたときにさせていた、ジャラジャラという音の原因もまた、これだった。  金のチェーンの真ん中付近に、同じく金でできた細長い棒みたいな飾りが、縄のれんのごとく大量に吊り下がっている。  いや、もっとほかに表現はあったとは思うけどな?!  ファッションにくわしくない俺には、それが限界だった。 「これ、神気がすごいことになってるけど、一体なんの加護がついてるんだよ……」  ちょっとした御神体として、祀り上げられるレベルの品物じゃないか!  こんなもの身につけてたら、魔王ふくめてどんな魔物だって寄せ付けないだろうし、それどころかこれを媒体にして結界を張ったら、街ごと聖域にできてしまうんじゃないか?  とにかく、オーバースペックであることだけは、まちがいない。 「そりゃあ、もちろんキミを魔王から守るための護符代わりにつけてもらおうと思いまして、魔族を寄せつけないための聖なる力を、ありったけ込めてもらってきたものですよ!」  うん、なるほど?  たしかに魔王は怖いもんな、そこまではわかるぞ。 「で、その『ありったけの聖なる力』を込めてくださったのは、どこのどなたなのかな?」 「そりゃあもちろん、この教会の主祭神の三柱全員ですよ!あたりまえじゃないですか、万全を期すなら、それくらいはしないと!」  まったく悪びれる様子のないイケメン死神に、思わずあたまが痛くなる。  主祭神様方が勢ぞろいして付与とか、どんだけだよ!  むしろこの世界にあっちゃ、ヤバいレベルの品物になってるだろうが!! 「こんなモンつけたら、むしろ神気が濃すぎて、そっちにやられるわ!!」  あれか、また俺に神気酔いして、あんなはずかしい思いをしろって言うのか、コイツは!!  思わず怒りで、ツッコミを入れる口調も若干厳しめになった。  だってそうだろ、つい先日のことなんだぞ、あのルイス王子まで巻き込んだあれやこれやがあったのは。  それをまだ反省してなかったのかよ、ってなったのも仕方ないことだと思う。 「大丈夫ですよ、キミのお世話は毎回ワタシが責任もって、きっちりやりますから!」 「余計に始末が悪いわ、ボケ!!」  勢いで切り返してしまってから、あわてて口をふさぐ。  コイツはこんなのでも、うちの教会のお祀りしている神様の関係者であることに変わりはない。  くわしい役職だとか、名前だとかを聞いたことはなかったけれど、少なくとも、こんな個人的な力の付与のお願いを聞いてもらえるくらいには、親しい立ち位置にいるわけだ。  さすがに神官という立場上、そんなある意味で最も敬意を払ってしかるべき存在にたいして、昔からのつきあいがあるからといって、あんまり失礼な態度は取るのはどうかとも思うのだけど。  でもひとこと言わせて欲しい、『やりすぎだ』と。 「むうぅ、キミの身をこんなに案じているというのに、なぜ伝わらないのでしょう?!」 「あのなぁ、単純にやりすぎなんだってば!」  もうなんなんだよ、あたまが痛いなんてもんじゃないぞ。 「この世にあってはならないレベルの稀少品つけてる時点で、すでにおかしいだろ?!今回の目的は、ほかの神官たちと比べても、目立たなくするためってのもあるんだからな?もう少し、シンプルなデザインで、効果の弱いやつを頼む」  少なくとも、俺が提案したアクセサリー装備による安全策ってのは、そういう目的だったはずだ。  いわゆる『木を隠すなら森作戦』と言えばいいんだろうか。  黒髪黒目だとか、月花燐樹の匂いだとか、俺の特徴をごまかして目立たなくさせるのも、主な目的にふくまれている。 「それは、たしかにそうなんですけどね。弱い効果といったらこれですが、正直気乗りしないんですよねぇ……」  パチリと指を鳴らしてイケメン死神が取り出したのは、妙に見覚えのあるデザインのネックレスだった。  オニキスみたいな黒い石を数珠つなぎにして、その中央に大きいアメジストみたいな紫の宝石をつけたそれは、俺の記憶がたしかならばゲームのなかに出てきた『魔除けの首飾り』というお役立ちアイテムそのものだった。 「これだって、邪気とかで受けるダメージを半減させるくらいの効果はあるんだろ?それだけでも十分、スゴいと思うけどな」  というか、むしろ俺が欲しかったのは、そのものズバリこれだ。  ただ、ここで自分が入手してしまっても物語の進行上、問題が生じないかだけが心配だった。 「完全防御の効果のある『魔封じの首飾り』を作るに当たって試作してみたんですけどね、その効果はせいぜい半減させるとか、気休め程度しかなかったんですよ。こんなもの、ワタシにしてみれば失敗作です!どうせ作るなら完ぺきなものを目指してやろうと思うのが当然ですし、職人魂にも火がつくってもんじゃないですか!」  ───なにを言ってるんだ、コイツは……そもそもお前はアクセサリー職人でもなんでもないだろうが!  そういうツッコミを入れるのは、もはやあきらめたほうがいいだろうか。  というよりむしろ、あのゲームでは後半にならないと入手できない、防御面の底上げでかなり役立つアイテムが、まさかの『試作品』かつ『失敗作』あつかいだってことだろ……。  え、なにそれ、どういうことなんだ??  これだって、十分チートアイテムだろう? 「ということで、これは適当に処分するということで」  パチリと指を鳴らした瞬間、出たときと同じく一瞬にして魔除けの首飾りはその場からなくなった。  あーっ、もったいない!!  ……ていうか、今ものすごい裏側の話を聞いてしまったような気がするのは気のせいだろうか。  だって、まさかのゲーム内でのお役立ちアイテムが、このイケメン死神によって生み出されたものだったとは思わなかったよ。  そしてそれが、『試作品』とか『失敗作』呼ばわりされてることにもおどろいたんだけど、そんなこともかすむくらい、一番ヤバいことがある。  ───そう、それが『』ってことだ。  あぁもう、なんでだよ!?  俺はあのゲーム本編には、影すらも出てこないモブじゃなかったのかよ!  めっちゃあのゲーム内にも、影響及ぼしてんじゃん……。  今さらながら気づいてしまったせいで、なんとも言いがたい気持ちになって、俺は言葉を失ったのだった。  俺はただ、平穏無事な毎日を、無難に送りたいだけなのに……。  あぁもう、本当に勘弁してください……っ!! .
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