741人が本棚に入れています
本棚に追加
*第29話:セーブデータは上書きされました*
神気に触れすぎて、神気酔いを起こしてしまえば、あとはそれが抜けるまでからだが熱くてどうしようもなくなる。
まるでエロゲのヒロインのような、その厄介な体質に悩まされている俺は、今まさにそのせいで生殺しのような思いをしていた。
すっかり息は上がり、はぁはぁと肩で荒い呼吸をくりかえす。
けれどそんな動きで起きるわずかな衣ずれでさえも、敏感になった皮膚にあたれば余計に息を乱される原因となり得る。
「あぁ、たしか腕を取られて後ろにひねりあげられたんでしたっけ?」
「あうっ!」
そう言うなり、手首を取られあっという間に後ろ手にひねられた。
本当にコイツも最低限の動きしかしていないはずなのに、たったこれだけで完全に動きを封じられた。
さらに背後から密着されれば、心臓の脈打つ音がドッドッと、わけもなく早くなっていくのがわかる。
あれ……なんだろう、これは……怖い……?
そう、とっさに感じたのは、恐怖だった。
さっきまでは、こっちからすがっていたはずのイケメン死神は、今や背後を取ってきているせいで、その姿が見えない。
だからそのせいで、あのときと記憶が混濁して、一瞬だれが背後にいるのかがわからなくなってしまったのかもしれない。
あのときとはちがって、あたまが痛くなるようなキツい香水の匂いも感じられないけれど、腕をひねられたまま背後から密着されているという状況はまるで同じだ。
とたんに、視野が狭窄する。
瞬時にあたまをよぎったのは、ついさっき起きたばかりのことだ。
鍵のかかった密室で、腕力ではどうあがいても敵わない相手に襲われかけたときのことだった。
いつもなら部屋の外にいるはずの立哨の騎士自体が、こうして部屋のなかにいて、自分を襲っている。
ふだんから教会内でも、人との接触を可能なかぎり避けるように配置されたこの部屋では、さけび声をあげたところで、きっとだれにも届かない。
そんなところで、こうして腕をひねられ、抵抗できない状態でからだをまさぐられた。
相手は身内で、ふだんからそういう不埒な輩からも俺を護ってくれている、安心できる人だと思っていたのに……。
いつからそんな目で、見られていたんだろうか?
あぁ、どうしよう、逃げなきゃいけないのに、足がふるえる。
思わずそのふるえが足からからだ全体に伝わりそうになったところで、肩の上に後ろからあごが乗せられた。
「はー、たしかにこんなんじゃ、まさぐり放題ですよねぇ。キミがいくら抵抗しようとしたところで、こういう体勢からの逃げかたなんてわからなきゃ、どうしようもないでしょうしね」
その聞きなれたイケメン死神の声に、ハッと我にかえる。
そうだ、相手は護衛の騎士じゃない、イケメン死神だ。
だから、怖がる必要はないんだ。
そう気づいたとたん、ホッとして、強ばっていたからだから余計な力が抜けていく。
いや、ちょっと待て!
ホッとしちゃダメだろ、相手がだれだろうと今の体勢自体が色々とヤバい。
本当に再現する気なら、ここからうなじをなめられるわ、胸元をまさぐられるわ、とにかくピンチになるしかないだろ。
「ほうほう、ここからうなじをなめて、胸元をまさぐれと……」
そう言いながらも、軽くリップ音を立ててうなじにキスをされた。
その直後に、ぺろりと舌でなめられる。
「ひゃあっ!ま……、ちょっと待った!」
とたんに背すじを走り抜けていくゾワゾワとした感覚に、あわてて声をあげた。
だからなんで、俺が言う前から心の声がもれてるんだってば!?
「ふ……あぁっ……!」
「んー、このときにキスマークがつけられた……ってわけでもなさそうですよねぇ?」
首をかしげているのか、肩まである艶やかなウェーブを描く黒髪が俺の首すじに触れてきて、くすぐったい。
「まぁ、とりあえず正確に再現するためにも、まずはこっちもいじってあげますかねぇ」
「やっ、ちょっと待って…っ!そんなん、いらないから……ひゃうっ!」
するりと服のなかへともぐり込んできた手が、やっぱりピンポイントで乳首の場所をあててくる。
「んっく、やめ……っ!」
そうして探り当てられた乳首をこねくりまわしてくるのに、ビクビクとからだがふるえる。
ゆっくりと円を描くように動いたかと思えば、軽く爪を立てられる。
「あぅ、や……だぁっ…!」
そのたびに、ただでさえ神気酔いでからだが熱くてたまらないのに、その熱がジクジクとくすぶって腰の奥がうずいてたまらない。
嫌だと思う気持ちはあるのに、ただその種類は、あのときとはちがうものだ。
なんていうか、あのときは純粋に触られること自体が嫌で嫌でしょうがなかったけど、これはなんていうか触られることによって、自分でも想像がつかないくらいに乱されてしまうことが嫌なだけだ。
「んー、やっぱりキミはここが弱いんですかねぇ。ふふ、かわいいですよ?」
くすぐったいだけではないなにかに、さらに息が荒いものになっていく。
さっきから、自力で立っているのもツラくなってくるくらいだった。
アイツといいコイツといい、なんでそんな乳首の場所とか、一発であててくるんだよ!?
ていうか、アイツはローブをかき分けて服の上からだったのに、なんでコイツは直接触れてきてるんだ??
「ええっ、だってそこにおいしそうに色づく、キミのかわいい乳首があるんですよ?触れたいと思うのが、人情ってもんでしょうよ!」
「知るか!っていうか、腕、いい加減にはなせよな!?」
わけのわからない言い訳をしてくるイケメン死神に、俺は思わずツッコミを入れる。
「もー、キミはワガママさんですねぇ。まぁそんなところもふくめて、かわいいんですけどね?」
「ほざけ!」
気がつけば、いつもみたいなやりとりになっていた。
腕も無事に解放されたところで、しかしあらためて背後から抱きつかれた。
「はあぁ、本当にキミはかわいいですよね~!」
そしてその勢いのままに、思いっきりほおずりをされる。
「ちょっと、はなれろー!」
「イーヤーでーすー!」
グリグリと押しつけられるあたまが、余計にくすぐったくて、でも艶っぽい雰囲気も霧散していたおかげか、自然と笑いが込み上げてくる。
こんなことも、あのときとは全然ちがう。
あのときは、たぶん腕を解放されるときには絶望に満たされていたけれど、今はそれどころか笑いに満ちている。
もちろん、まだ神気酔いでからだがツラいのは変わってないけれど、さっき感じた恐怖というのは、微塵も残っていなかった。
それはまるで、記憶というセーブデータが丸ごと上書き保存されたみたいな感覚だった。
それこそ、俺のなかに残るオルトマーレ護衛班長への恐怖と嫌悪の記憶は、イケメン死神との行為とともに与えられる強烈な快感とで、すべて書き換えられていく。
今、俺の背後にいるのは、アイツじゃなくてイケメン死神だ。
それがはっきりとわかるから、得体のしれない輩に襲われているときのような恐怖はなかった。
どこまで本気なのか、わからないのは同じはずなのに、あのときとは明確になにかがちがっていた。
それだけコイツが俺にとっての『特別枠』にあるってことなんだろうかと、ふとそんなことを思った。
「おや、考えごととは余裕ですね。ならば抵抗のない今のうちに、もっとおいしくいただいておきますかねぇ」
はいぃ!?
コイツは、なにを言っているんだ?
それは、ほんの一瞬の隙だったのかもしれない。
だけど気がついたときには、さっきまでと同じようにイケメン死神の手が、服の下へともぐり込んできていた。
前言撤回、特別枠だからって、許されることばかりじゃない。
こんな風に触られるなんて、俺は断じて許してないからな!?
「ひゃあっ……やだ、ちょっと待って……っ!!」
そしてまたカリカリと引っかくように胸元を刺激されたかと思ったら、そのままつままれた。
その絶妙な力加減は、ただくすぐったいだけとはちがう、別の感覚を呼び起こした。
「いいんですよ、もっと声を出しても。ほら前回の反省を生かして、ちゃんと最初に結界を張ってあげてますからね~。ワタシ、えらいでしょう?」
……それなら、少しくらいは声が出てしまっても、許されるだろうか……。
なんて流されそうになったけれど、そういえば前回は、結界すらなかったっていうのに、あえぎ声が口からひっきりなしにもれてしまっていたことを思い出した。
とたんにはずかしさで、カァッとほっぺたが熱く、赤く染まっていく。
というか、今だってめちゃくちゃふつうに流されてしまいそうなったけど、どうしてコイツにされると、こんな風になってしまうんだよ?!
ちょっと触られているだけなのに、おどろくほどにからだの芯に灯った熱は、俺の理性をもとろけさせてくる。
「んっ……く、ひぁっ……!!」
それでも必死に残る理性で、無様なあえぎ声をあげまいと口を閉じていようと努力をしていれば、それにいらだったかのように、うなじにやわらかいものが押しあてられる。
熱を帯びてやたらと敏感になった皮膚にとっては、そんな刺激さえも、暴力的なまでに感じてしまう。
思わず甲高い声を上げてしまってから、もう遅いのはわかっているのに、あわてて口をふさいだ。
なんなんだよ、俺のからだは全然言うことを聞いてくれない。
はずかしさでほっぺたの赤みはとれないし、なんなら耳まで赤くなってきた。
おまけに、うっすらと涙まで浮かんでくる。
さっきから胸元をいじる手は止むことはないし、むしろその刺激でしっかりと固くなった乳首を、遠慮なくなぶられている。
そのたびにゾクゾクと背中を走り抜けていく感覚は、まぎれもなく快感なのに、そのどれもが決定打にはなり得ない。
まるで生殺しだ。
それにさっきから、オルトマーレ護衛班長にされたことをなぞるようにあちこちをいじられているのに、肝心の下腹部には一切触れられていなかった。
それが、なによりももどかしくて───正直、ツラかった。
「も、やだぁ……」
泣きごとのような声をあげれば、背後からはかすかに笑う声が聞こえる。
「もう、降参ですか?」
それは奇しくも、あのときと同じ問いかけだった。
それじゃ、そろそろ責任を取ったほうがいいですか?なんて言って、うなじにふたたび触れてくるやわらかいくちびるが、リップ音を立てる。
そのとたんに、そこにチリッとした痛みを感じた。
「んんっ!やっ……はぅっ……」
その直後には舌でそこをなめられ、ぬめる舌が皮膚をなぞる感覚に、腰に向かってゾワゾワしたなにかが広がっていく。
たまらずに、熱い吐息が出た。
「タイミング的には、ここですかねぇ?」
「なに、が……?」
「キスマーク。つけられたとしたら、このタイミングだろうなぁと」
あぁ、それか……。
「──って、痕つけんな、バカ!」
快楽と体内にくすぶる熱に浮かされてとろけ出し、どこかへ流されそうになっていた理性が、一瞬にしてもどってくる。
「嫌ですよ、キミはだれのモノなのか、ここらであらためて、しっかり自覚してもらいたいですもん」
あわててふりかえりながら抗議の声をあげれば、ツーンとそっぽを向いたイケメン死神は、そんなことを言う。
『だれのモノ』って、え、俺は俺だろ?!
それとも、教会に保護されてるし、身分的には教会のモノになるのか??
わけがわからなくて、背後のイケメン死神の顔色をそっとうかがう。
「あー、うん……そういうところですよ。キミは毎回無自覚すぎるというか、ちゃんとワタシのモノだという自覚を持ってもらいたいものですねぇ」
不機嫌そうにかえされたセリフに、むしろビックリした。
え?は??
なに、いつの間に俺はお前のモノになってんだよ!?
おかげで、さらにわけがわからなくなった気がする。
……あれ、でもこの世界で死にかけてた俺を拾って助けてくれたのはコイツだし、その時点で俺の命はコイツのモノってことか……?
うーん、それなら納得でき……るのか??
「はぁ……、キミはこんなときでも、あいかわらずですね。一度そのゆるふわなあたまのなかを、見てみたい気もしますけどね……」
「もうなんなんだよ、ゆるふわって言うな!」
深々とため息をつかれたけれど、納得できかねる。
「責任は取るつもりではいますけど、その前に必要なのは教育ですかねぇ……」
深々とため息をつかれたけれど、マジで意味がわからない。
俺はちゃんと、常識人のつもりなんだけどな!?
「んっ!」
首をひねっているところに、さらに歯を立てられた。
もちろん本気で噛むというよりは、甘噛みされただけなんだけど。
「や、なんで……っ!?」
そのまま噛まれた箇所を、ちろちろと舌でなめられる。
熱く火照った皮膚に、その刺激は強すぎた。
ビクビクと、からだが痙攣したみたいに反応をしてしまった。
「目の前に無防備にさらされている首すじあれば、むしゃぶりつきたくなるのは、自然の摂理じゃないですか!」
……いやいや、そんなわけないだろーが!
さっきから、『人情』だとか『自然の摂理』だとか、コイツはなにを言ってるんだろうな?!
「はぁっ、んっ……」
首すじをなめられるのと同時に、胸元を責め立てる指の動きも再開されて、我慢できずに声がもれはじめる。
こらえきれずに息はあがり、からだはせり上がってくる快感に、ぶるりとふるえた。
最初は、あのときにオルトマーレ護衛班長にされたことをなぞるだけの行為だったはずなのに、いつの間にかこっちのほうが、しっかりとからだに刻まれる記憶になってきた。
もう、全くもって現場検証なんかじゃなかった。
それどころかとろけたあたまでは、もう彼からなにをされたかなんて、ほとんど覚えちゃいない。
それくらい、コイツによって今のこのときに与えられる快感が強烈なものだってことだ。
口からは意味のないあえぎ声ばかりがもれはじめ、足だって力が入らなくて、ガクガクしている。
股間は今にもはちきれんばかりに硬く勃ちあがっているのに、さっきから一度も触れられていない。
それが一番、ツラかった。
どこを触られても、全身が性感帯になってしまったんじゃないかってくらい、気持ちいいのはたしかだけど、もちろんそれだけじゃイケない。
体内にくすぶっていた神気は、さっきから暴れまわっていて解放されたいと全力で訴えてきていた。
「んっ、だって……全然イケないし……っ!さっきからもう熱くてたまんないのに…ぃっ…!」
気がつけばそんな泣きごとが、口からもれていた。
「ふふ、それはツラかったですね。お仕置きとはいえ、キミにとってかわいそうなことをしてしまいました」
耳元でそう言って笑う、イケメン死神の呼気が皮膚にあたるその刺激でさえも、からだをふるわせるには十分だった。
声にならない悲鳴が、口からもれる。
「それじゃそろそろ、キミよりよっぽど素直に自己主張している、こっちをかまってあげましょうかねぇ」
すり、とそのきれいな手が、股間の布を押し上げて主張する俺の性器をなぞってくる。
それだけなのに、期待に満ちたそこは、歓喜の涙をこぼすかのように、先走りがにじむ。
「ふふ、すなおな子は嫌いじゃないですよ?焦らした分、たっぷりかわいがってあげますからね」
その艶のある声に、これからあたえられるであろう快楽を思い、からだは勝手に期待にふるえた。
.
最初のコメントを投稿しよう!