第31話:臨時護衛担当がVIPでスパダリすぎる

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第31話:臨時護衛担当がVIPでスパダリすぎる

 もはやお約束のようになった、スッキリさわやかな朝の目覚め。  それにからだも、めちゃくちゃ軽い気がする。  あれだけ濃い神気にさらされたというのに、その影響はまったくのこっていなかった。  代わりと言ってはなんだけど、あのときに選んだ黒い勾玉状の石がついたペンダントは、すっかり神気を抑えられた状態で首から下がっている。  そっと触れれば、あのときみたいに光ることはなかったけれど、その黒い石はつるんとした質感で、少しひんやりとしていて、触れているだけで心が落ちついていく気がした。  神気が抑えられている件については、妙なところで職人気質なイケメン死神が、なんとかしてくれていたんだろうなとは思う。  なんか、だいぶ熱く語ってたもんなぁ……。  でもたしかに、せっかく効果が高かろうと、俺の場合は神気がもれてたら、その時点でつける意味がないもんな。    とはいえ、宝物庫で首にかけた直後に倒れ、そして目が覚めてからも、そういえばこれはつけたままだったことを思い出す。  あのときはそれどころじゃなかったから、どれくらいきちんと抑えられていたかは覚えていないけど、でもたしかにこっちにもどってきた時点で、だいぶ抑える加工がほどこされていたとは思うんだよ。  じゃなきゃ、ふつうにエンドレスだったと思うから。  なにがって、そりゃ神気酔いが、だよ!  そうじゃなきゃ、あんなもんじゃ済まなかったと思うんだけど。  いや、でも言わせてもらえるならば、言わせてもらおう。  あんなもんっていうか、もうすでに十分すぎるほど、はずかしい思いはしたけどな?!  その瞬間、からだに深く刻まれた記憶がよみがえり、ズクリとからだの芯に熱が生じそうになる。 「え、あ……っ?」  とたんに脳内には、イケメン死神にされたことが再生されて、とてつもなくいたたまれない気持ちで、両手で顔を覆った。  うぅ、なんだよ、もう、めっちゃほっぺたが熱い。  きっと耳まで赤くなってるんだろうな、今の俺。  どちゃくそはずかしいぞ、これは……。  いや、だってさ、考えてもみろよ。  体内で暴れまわる神気を吐き出すだけなら、別にだれかの手を借りる必要なんてないわけじゃん?  これでも一応結界を張るくらいなら、自力でできるつもりだし。  それこそ幼いころから、せっかくのファンタジー世界を満喫しようと、魔法の練習だけはしっかりしてきたんだから、部屋の外に音がもれないようにするくらいなら、わけもない。  ついでに言えば、気になる臭いとか汚れとかに関しては、換気をしないでも妖精たちの力を借りれば処理も完ぺきなのは、前回で実証済みだ。  ……あれ、やっぱりなんか俺、イケメン死神にだまされてないかな??  本当はだれかの手を借りる必要もないし、まして──よりによってあんなところまで、いじられる必要なかったんじゃないのかな……なんて思うんだけど。  思い出すだけで、はずかしさにのたうちまわりたくなる。  だからといって、とりあえず日課のお祈りもあることだし、あまりのんびりもしていられない。  あわてて立ち上がると、いつもの朝の身じたくを済ませていく。  今日は特に公式行事もないことだし、特殊な衣装を着ることもなく、服の上からいつもの黒のローブをまとうだけだ。  最後に髪を整え、鏡の前で身だしなみをチェックする。  さすがにご神託を授かる神官なんてやっていると、人目もあるから、多少は身だしなみを気にしなくちゃいけない。  ついでにそういうところに隙があると、なんだかんだといろんな人に構われてしまうし。  昨晩たっぷりとイケメン死神によって、『危機感を持て』の意味を思い知らされた身としては、これ以上、むやみに人を近づけさせたくなかったしな。  うん、俺は狙われやすいらしいから、人との距離感は大事だと思ったわけだ。  だってさ、いくらなんでも知識だけなら俺だって知ってるよ。  男同士でヤるときは、そこを使うってことくらい。  いや、女の子相手でも場合によっては使う場所ではあるけれど。  うん、知識としては知らないわけじゃなかったのに、これまでは全然そんなこと、自分の身に降りかかるかもしれないことだなんて、意識したこともなかったからなぁ。  たぶん、そういうところがアイツの言うところの『危機感が足りてない』ところなんだろう。  だからこそ、よりいっそう昨晩されたことの持つ意味を考えてしまって、いたたまれなくなるんだけど。  たしかにナニが挿れられたわけじゃなくて、本当に指だけだったんだけど……えーと、たぶん……本当に指だけだったんだよな?  自らのからだに意識を向けてみても、該当箇所には特段の違和感はないようだった。  よし、まだ俺はバックヴァージンは失ってないぞ。  ……っていうか、ひょっとしなくても、指だけでも十分アウトなのか……?  いやいやいや、俺は至ってノーマルな嗜好の持ち主だから!  どちらかっていうと、この世界で生を受けてからは、禁欲的な生活が板についてしまったから、彼女がほしいとかそういう気持ちはふしぎなくらいなかったけどな。  そうか、ひょっとしたら、いざ女の子を前にしたときに勃たなくなってるなんてことも、あり得なくはないのか……??  だってこの世で俺がそれっぽい行為をした相手って、ルイス王子とイケメン死神だけだもんな…。  うん、ふたりとも顔はめちゃくちゃきれいだったりかわいかったりはするけど、男だよな。  ───知ってた。  思わず、すんっと真顔になりそうになったところで、心のなかはなんとも複雑なものになっていた。  ともかくからだはすっきりとしているのに、気持ちの上ではまったくすっきりしていないというか、むしろいろんなことを考えてしまってモヤモヤするというか。  だけどそんなことよりも、一番問題なのは俺自身だ。  だってさ……いくら神気酔いをしていたからって言っても、その……めちゃくちゃ気持ち良かったんだぞ?!  そんなとこいじられてイッたとか、一生の不覚もいいところじゃねーか!!  そりゃもちろん、後ろだけでイッたわけじゃないし、同時に前もいじられてはいたけどな?  でもなんていうか、気持ちの上では大事ななにかを失ってしまったような、越えてはならない一線を越えてしまったような、そんな感じになっていた。  本当に、これからどんな顔してアイツに会えばいいんだろうか?  絶対に気まずいこと、まちがいなしだ。  そんな風にひとりで煩悶をくりかえしつつ、聖堂に向かう準備をしていたら、部屋のドアがノックされた。 「おはようございます、オラクル様。ルイスです!」  声色からもあふれるキラキラ感をまといながらの訪問者は、なんとルイス王子だった。 「はいっ、おはようございます!」  マジかよ、うわさをすればなんとやらというか、あまりにもタイムリーな登場に、あやうく声がうらがえるところだった。  なんとか必死にごまかしたけど、バレてないといいな。  部屋の鍵は開いていたけれど、さすがに勝手に入ってこいとは言えないからと、迎え入れるためにあわてて扉にかけ寄る。 「おはようございます、ルイス様。どうぞ、こちらへ」  そうしてなかへと、入るようにうながした。  一瞬、ついでのようにルイス王子とのあれこれを思い出しかけて、気まずくなりかけたものの、あわてて抑え込んでなに食わぬ顔をよそおう。  これくらいならば、なんとかごまかせるだろう。  よーし、困ったときには、とりあえずほほえんどけ。 「あらためまして、おはようございます、ルイス様」  来客用のソファーへとご案内をしたところで、深々とお辞儀をしながら朝のあいさつをし直した。 「おはようございます、オラクル様!このような早朝より、お部屋に押しかけました不調法をお許しください」  そうすれば相手からも、ていねいなあいさつが返された。  うーん、今朝もキラキラ加減は絶好調だな。  まぶしくて、目がつぶれそうだ。 「とんでもない、ルイス様ならいつでも歓迎いたしますよ」  なにしろこの方のお疲れを癒してやってほしいとは、うちの教会の主祭神様からのお言葉だからな、俺にできることはなんでもするさ。  早朝だろうと、ルイス王子の対応のためなら、多少朝のお祈りが遅れたところで、神様方から許してもらえるだろう。  そう踏んで、お茶の準備でもしようとしたところで、しかし本人からはやんわりと止められた。 「オラクル様、どうぞお気づかいなく。どちらかと言えば聖堂に向かわれるころかと思い、お迎えにあがったのです」 「それは、あの、どういう……?」  いつもなら聖堂への移動の際には、教会所属の騎士たちが護衛についてくれるはずなのに、と思ったところで、その必然性に気がついた。  そうか、昨日と言えば俺の護衛を担当していたオルトマーレ護衛班長に襲われかけて、それからなんやかんやあって、最終的に彼はイケメン死神にどこかに飛ばされたんだっけか……。  その後の記憶があまりにも強烈なものだったから、つい忘れかけていた。  そっか、おおかた護衛担当の責任者だった彼が不祥事を起こしたから、今朝は教会所属の騎士たちも全員上層部から呼び出しを食らっているのかもしれない。  それなら別のだれかが寄越されるのも納得だし、まして護衛の騎士を連れてきているルイス王子ならちょうどいい。  ……とはならないだろっ!?  だって仮にも相手はルイス王子、あのゲームのメインキャラクターのひとりにして、この教会本部がある国の第一王子様なんだぞ?!  ましてルイス王子には先日のご神託で、『魔王を討ち倒す光の御子』という肩書きまで加わっている。  どこからどう見ても、この世界のVIP以外のなにものでもないだろーが!!  そんなすごい肩書きのある方の手を煩わせるとか、なんだかとても申し訳ない。  でもそんなルイス王子からは、そういえば『騎士の誓い』を受けているんだっけか。 「ふふ、頼りなく見えるかもしれませんが、これでも僕はオラクル様をお護りする役目をたまわりました身ですので、遠慮なくお使いください」  そんなことを考えていたら、本人からも念押しされた。  でもなぁ……わざわざルイス王子にご足労いただいてまで護衛つける必要あるのかな、と思わなくもない。  なにしろ聖堂なんて、同じ教会本部の敷地内にある場所なんだから、本来なら身内しかいない場所だし、護衛もなにもいらないだろうに……と思う。 「うふふ、気になさらないでくださいね?月花(げっか)の君に頼まれたのもありますし、なにより僕自身が朝早くからオラクル様にお会いしたかったので、かえって役得でした!」 「ルイス様……」  こっちに気をつかわせないようになんだろうけど、そんなかわいいことを言ってくれるなんて、くぅっ、なんていい子なんだ!  キラキラスマイルを浮かべたままに、イケメン死神に頼まれたことをサラッと口にするルイス王子に、感動する。  こんな風に周囲を気づかえるなんて、さすがだよな。  俺のほうが年上だし、本来なら俺からもっと色々とおもてなしをしなくてはいけないくらいなのに……。 「それでは、ご準備がお済みでしたら、参りましょうか?」  差し出された手をとれば、さりげなく紳士的にエスコートされる。  うぅっ、なんだよこれ、なんかすごい照れる。  廊下に出ればルイス王子の連れてきた護衛の騎士がそろっていて、一斉にお辞儀をされた。 「オラクル様を聖堂へお連れするので、先導を!」  ルイス王子からの指示が飛び、またもや一糸乱れぬ動きで隊列が形成される。  壮観なんだろうけど、やっぱりすごい圧だ。  こういうビシッとした軍隊的ノリは、俺にとっては慣れないものだった。  けれどそんななかでも、まったく気後れをするどころか、しっかりと指揮を取っているあたり、ルイス王子はさすがだ。  そうしてぞろぞろと隊列を成して建物内を練り歩けば、否が応にも目立ってしまう。  そんな状態でも、隙のない身のこなしでエスコートしてくれるルイス王子のおかげで、だれかに絡まれることもなく無事に聖堂へたどりつけた。  いつものようにお祈りし、あわせて神様方に昨日の宝物庫でいただいたペンダントについても、お礼を伝える。  今もローブの下につけているけれど、そのどっしりとしつつも穏やかな波動は、たしかにこれなら邪気や魔力からも守ってくれそうな気配がした。  その日課の朝の礼拝が済めば、今度はそのまま食堂へと連れていかれる。  俺が聖堂でお祈りをしているうちに、朝食は食堂でとることを伝えておいてくれたらしい。  そこら辺の手配も、抜かりがなかった。  うーん、ルイス王子は見た目こそかわいらしいタイプだけど、こうして見ると指示は的確で、細かな気配りもできるし、部下から見れば頼り甲斐がある上司だし、それでいて守ると決めた相手には物腰おだやかで、いかにも王子様とか……もはや欠点が見当たらない。  言うなれば、あれだ、『スパダリ』ってヤツだよな。  ほどよく食べ終わったところで、ルイス王子はお付きの者に指示を出し、紫のサテン地のような布につつまれたものを手に乗せると、こちらへ差し出してきた。  そこからただよってくるのは、良質な複数属性を組み合わせた妖精の力の気配だ。  なんだろう、これは? 「ところでオラクル様、先日の月花の君とのお話のなかで、身を守るためのアクセサリーをお探しとうかがいまして、僕からもご用意させていただきました。どうぞご笑納ください」  そうして広げられた布の中央にあったのは、細やかな意匠をほどこされた金属製の腕輪だった。 「これは……っ!?」 「えぇ、ルミエールに相談をして、ほかにも色々な妖精たちにも協力してもらって、効果を付与してもらいました」  出されたそれを見て、瞬間的に息を飲む。  それもそのはず、その腕輪は非常に見おぼえのあるものだったからだ。 「『』……っ!?」  小さく悲鳴のような声が、こらえきれずに俺の口からもれた。 .
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