文筆家

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 …――隠し事か。  俺の表の顔は一般市民。文筆家だ。 『悪を成敗ッ!?』  ちょうど一週間ぐらい前だろうか、目の前でいかにもな悪人が倒れた。  俺は興奮して紅潮した顔つきで、その時の状況を脳に強く焼き付けた。  正体が不明なヒーローが、悪を倒した瞬間だった。  そうだな、うん。  人には一つや二つの他人には言えない秘密がある。  その秘密を隠し事と言うのだろう。  もちろん俺にだって隠し事がある。  繰り返しになるが、俺は、いわゆる文筆家で文章を書く事を生業としている。その流れで、地球防衛隊という肩書も持っている。言うまでもないが、地球防衛隊とは一般人には正体を明かさないヒーローだ。少なくとも俺は、そう思っている。  でも、まあ、地球防衛隊とは言えど俺一人だけだ。  だから、  地球防衛隊と隊を名乗ってもいいのかどうかも怪しいのだが、まあ、気にするな。  ともかく、正体を、ひた隠して愛する地球を危機から守る為に俺は俺の道をゆく。  それこそが俺の他人には言えない秘密、隠し事だ。 「そう言えばさ。最近、謎のヒーローが街に現れては凶悪な犯罪者を成敗してまわってるって話、あったでしょ? どうやらそのヒーローの正体が分かったらしいのよ」  白いカップを傾けてコクっと喉を鳴らし、コーヒーを美味しそうに飲む俺の彼女。 「その話、一切、まったく興味なし」  敢えて素っ気ない態度で答える俺。  まあ、人には他人に隠しておきたい秘密が一つや二つは必ずあるのだ。  その話には、今は触れてくれるな。  対して、  カップを置いた彼女は、手持ち無沙汰なのか、コーヒーをスプーンでかき混ぜる。 「まあ、聞きなさいっての。きっと、あんたの仕事のいいネタになるからさ。そのヒーローの正体って、実は……、連続殺人犯らしいのよ。シリアルキラーってやつ?」  一通りかき混ぜたあと、スプーンを口へと持っていき、付いたコーヒーを舐める。  やはり。  間違いない。彼女が俺に伝えようとする手入れた情報は……。  やつが書いた記事だ。間違いない。  いや、やつと言ってしまっていのか悩むが、ここではやつという事にしておこう。
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