文筆家

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 俺の心臓が激しく脈打ち、高鳴る。 「だから興味ないって。聞いてる?」  また素っ気ない態度で、突き放す。  心臓の鼓動を落ち着ける為に……、  近くの窓から見える空を見つめ流れる白い雲を無言で見送る。 「他人を叩きのめすのが好きだから悪人を殴っていたんだって。ヒーローの真相が単なる戦闘狂で他人を傷つけて快感を感じていたなんてね。がっかりだわ」  半開きになった目でジトッと巡る黒い液体を見つめて、大きなため息を吐く彼女。  俺が見つめる雲は正義と悪を履き違えたのか、死神を形作り大きな口を開け嗤う。  …――隠し事か。  しつこいようだが、人には他人に絶対に言えない秘密が、一つや二つは必ず在る。 『悪を成敗ッ!?』  一週間ほど前に目の前で繰り広げられた、あの脳に焼き付けたシーンを思い出す。  そうか。  そうだな。アレは、やはりそういう事だったのか。  まあ、俺のあの対処は間違っていなかったわけだ。  俺は、地球防衛隊と名乗って己の正体を隠して守るべき地球の平和を守っている。  しかしながら別の銀河から宇宙人が攻めてきたら白旗をあげて降伏するだろう。いや、目の前に幽霊が現れでもしたら膝から崩れて腰が抜けるだろう。それどころか、件の偽のヒーローが倒した暴漢が俺の目の前に現れたら……、  そそくさと目も合わさず一目散に逃げだすだろう。  なぜなら俺は、か弱き一般人に過ぎないのだから。  地球防衛隊なんて、大層な名を名乗ってはいるが、  その実、小市民という言葉が似合う男なのだから。 「で、そのシリアルキラーってさ、結局、誰なのさ? 正体が分かったんでしょ?」  俺は、彼女から視線を外したまま、疲れ切った目で天井にある蛍光灯を見つめる。  今日はなんだか疲れたよ。  正体を隠し通す事に……。  蛍光灯は切れかかっているのか時折、ジジっと明滅している。  腕を投げ出してだらんと脱力して、また大きなため息を吐く。 「この雑誌に書いてあるよ、その偽ヒーローの正体」  これみよがしに机上に置いてあった女性週刊誌を渡してくる。  俺はパラパラと適当にページをめくって、またため息を吐く。 「……どこにさ?」
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