泣いた理由は聞かない

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 ある日の帰り道、一人で歩いていると川辺に座る見覚えのある後ろ姿が目に映った。  同じクラスの女の子だ。    彼女の後ろ姿はいつ見ても、姿勢がよくて、授業中斜め後ろの席から見ているといつも、綺麗だな、と思う。  その背中が、小刻みに震えている。  時々ハンカチで目元をぬぐっては、鼻をすすっていた。  こういう時――放っておくのがいいのかな  誰か他に友達が居たなら、放っておくべきかもしれない  でも、彼女は今、一人で、泣いている  僕は考えがまとまらないまま、彼女の方へ歩いていった  「お疲れ様」  彼女の背筋がピン、と伸びる  一度だけ涙を拭って振り返った彼女は  「お疲れ様……どうしたの?」  と、少し赤くなった目で、でも何事もなかったようなポーカーフェイスで聞いてきた。  「ん? いや、ここの川辺好きでね」  僕はそう言ってごまかして、彼女から少し離れた所に腰掛けた。  しばらく僕らは会話することなく、川の流れをじっと見つめていた。  僕がそこらにあった石を川に投げると、彼女は少し笑って同じように石を投げた。  「ねえ」  急に彼女が落ち着いた声で問いかけた。  「なんで、聞かないの?」  「何を?」  「私が、泣いた理由」  そう聞かれて、僕は振り返って、「さて、なんのことかな?」とでも言うように首をすくめてみた  そして立ち上がって、石を川に投げると、ぽんぽんぽん、と石がスキップをするように川を横切っていった。  「うまっ笑」  「うまいでしょ笑」  そう言って、僕は川切りを続けた。  そうしてしばらく経って、  「僕、泣いてるときに泣いてる理由聞いてくる人嫌い、っていうか苦手で」  とつぶやいた。  彼女は耳を傾けている。  「でも、放置されるのもいやで。だから、黙って近くに居られる人でいたいって思ったんだ」  僕がそう言うと、彼女がふわりと笑った。  「理想的なヒーローだね」  彼女は言いながら立ち上がった。  「ありがとう。また明日ね」  そう言って彼女はにっこりと笑って、くるりと背を向けた。  背を向ける前に見せた顔にはもう、涙の色はなかった。
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