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「…………」 口を押さえて私と父を交互に見る母さん その表情は物凄く驚愕していた だが、父さんは私から視線を逸らしはしなかった 「それは確かか?」 「はい」 「女性ではなく男性と付き合っていると?」 「はい」 「…………」 「いつか打ち明けなければならないと思っていました。それが今なんだと思い言いました」 「…………」 何も言わない父に私は話を続けた 「同性愛がどれだけ厳しい道のりなのかは十分に承知しています。私だけではなく周りの人にも風当たりが強くなるのも分かっています。 ……ですが私は彼の事が本当に大切で…… 親不孝者で本当にごめんなさい」 「…………」 父は黙ったまま立ち上がり、リビングから出て行ってしまった 「孝浩、あなた本当に男の人と?」 「はい」 信じられないと言わんばかりの表情をしたまま母さんが口を開いた 「冗談……よね?」 「いいえ」 「本当に?」 「はい」 「一体いつから……」 「女性に興味を持った事は今まで一度もありません」 「…………」 「ごめんなさい」 母さんに向かって私は深く頭を下げた 遅かれ早かれこうなる事は分かっていた 両親は孫の顔を見る事は一生出来ない 複雑な思いが飛び交っている今私が言えるのはただ一つしかない 「本当に……ごめんなさい」 「顔を上げなさい孝浩」 「……」 顔をゆっくりと上げ母さんを見つめた 「確かに驚いたけど……貴方は同性愛者がそんなに悪い事だと思う?」 「両親の事を考えれば」 「そう……」 「…………」 「だけど、私達は貴方の幸せを1番に思っているの。死んだあの子が幸せになれなかった分も……」 「……はい」 「孝弘が決めた道ならお父さんだってきっと……直ぐには受け入れられないと思うけど……私自身も」 「…………はい」 「…………」 重苦しい空気が流れ私の鼓動は速く脈打っていた 「今日はもう遅いし泊まって行きなさい」 「いえっ……向こうに帰ります」 「分かったわ」 「……ご馳走様でした」 ゆっくりと席を立ち、私は実家を出た 「…………」 今頃両親は思い悩んでいるに違いない だけど私は両親に打ち明けた事、後悔はしていない いつか必ず打ち明けなければいけなかった事なんだから…… それどころか心の蟠りがすっと軽くなったような気がした そして無性に勝哉さんに会いたくなった .
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