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憂を迎えに行ってから近くの飲食店にそのまま向かった
平日だから店もそんなに混んでなくて、直ぐにテーブル席へと案内された
「お久しぶりですね憂君」
『お久しぶりです。勝哉さんも誘わなくて良かったんですか?』
「勝哉さんは今日バイトですね」
「いいよ誘わなくて。あいつはうるさいだけなんだから」
『朔夜っ』
「はは……」
「……で、今日は突然どうしたの?」
何となく尾澤に聞いてみた
「実は……両親に私が男性とお付き合いしていると打ち明けまして」
『え!?』
尾澤がそう言うと、憂が過剰に反応した
ああ成る程、その話を俺に聞いて欲しかったのか
俺は全然気にしないけど尾澤からしたら校内じゃ話しづらかったんだろうな
「ふーん、良かったじゃない」
「え?」
「色々スッキリしたでしょ?」
「…………」
そう言うと、尾澤の表情が柔らかくなった
「そうですね、確かにスッキリはしました。ですがそれ以降両親にまだ会っていなくて……直ぐには受け入れられないと言われてしまいました」
「まぁ色々あるしね。そればっかはしょーがないよ」
「ええ。あの、朔夜は……朔夜達のご両親は同性とのお付き合いの事を知ってるんですか?」
「俺はそんなのもうとっくに言ってるよ」
『俺は……』
!
気まずそうに憂が口を開いた
しまった
マズイ
何も考えずいつもの調子で答えてしまった事にハッとした
「そう言えば尾澤はあの馬鹿と一緒に暮らさないの?」
俺は直ぐに話を変えた
憂に親の話はさせちゃいけない
「え?え、ええまぁ……ですがこの間勝哉さんが……その……」
「うんうん」
「私と同じハイツで勝哉さんも一人暮らしをすると言ってまして……今私が住んでる所は親の名義ですし同棲出来ないならせめて近くにと……」
そう言ってさりげなく惚気る尾澤
『勝哉さんがそう言ったんですか?』
「ええ」
『へぇー……俺が同じ事勝哉さんに聞いた時は曽我の奴に邪魔されてちゃんと聞けなかって』
「ああ、曽我君ですか。彼は元気にしていますか?」
『あいつは相変わらずですよ』
「ははっ随分と親しまれていますね」
『勝哉さんは超ウザがってますけどね。勝哉さんも一発ガツンと言ってやればいいのに』
「ははっ……優しい方ですから」
話は憂の後輩曽我君話へ……
良かった
話が綺麗に逸れてくれて
それから店を出て道案内をしてもらいながら尾澤をハイツまで送り届けた
「今日はありがとうございました。また一緒に食事に行きましょうね」
「うん」
『ありがとうございました!また一緒に行きましょうねっ』
「ええ。では……」
車を降りて尾澤はハイツへと入って行った
『…………』
車を運転しながら横目で何度か憂を見たが、ずっと窓の外をぼんやりと眺め口を閉ざしていた
まさか尾澤から親の話を聞かれるとは思ってなかったから……
だけど、憂に大丈夫か?とは言えなかった
言えばまた憂は無理矢理笑おうとするから
本当にもどかしい
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