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「ったく、この忙しい時期に……」
俺の顔を見た瞬間義父はそう言った
俺だってあんたの顔なんか二度と見たくなかった
「まぁいい、お前には書いてもらわなければいけない書類もあるしついでだから今日で全部済ませるか」
『書類?』
そう言って義父は引き出しの中から幾つか用事を取り出した
「今後お前は被扶養者で無くなるからその手続きやら何やら色々あるんだよ」
ああ、そう言う事か
『で、どれを書けばいいの?』
義父の指示に従い、数枚の書類を書き進めて行く途中自分には本当に家族と言うものがいないんだなとまた実感させられた
こんなたった紙切れ一枚で……
これから俺には保険証も何もかも無くなる
本当に迂闊に寝込んでいられない
「……よし、これでいい。後はお前が無事成人してそれからは自分で雇用保険やら何やら勝手にやればいい」
満足そうに義父は言った
「で、お前も話があるって?」
『……ああ』
遂にこの時が来た
鞄をぎゅっと握り締め俯いた
急に動悸がし、気分が悪くなって吐きそうになった
これを突っ返したら一体何を言われる?
罵られる?バカにするなと殴られるか?
それとも……
色んな事が頭の中で飛び交い今にも気絶しそうだった
しっかりしろ
ずっとこうしてやるって決めていたじゃないか
だけど体は本当に正直で、動悸どころか冷や汗まで出て来てしまいどう言えばいいのか一瞬で分からなくなり頭が真っ白になってしまった
不安
やっぱり朔夜について来て貰えば良かったと激しく後悔した
俺自身の問題だからって言って馬鹿みたいに……
隣に居なくても、近くにいてくれるだけでいいから……
そばにいて貰えば良かった
「あっ!」
急に母親が声を出した
「どうした?」
「今お腹を蹴ったの」
「そうか、元気な子だな。流石俺の子だ」
『…………』
自分のお腹を押さえて見た事ないぐらいの優しい母親の顔、義父の顔
決して俺に向けられた事のない顔
『…………』
震える手で鞄の中から封筒を取り出そうとした時、タイミングよく家の呼び出し音が鳴った
「ちょっと待ってて」
『ああ……』
母親がその呼び出し音に対応した時、インターフォンから聞こえて来た声は……
……っ
俺は鞄の中から手を引っ込め、直ぐに玄関へと走った
『な、何で……』
「こんにちは」
俺の実家を訪ねて来たのは朔夜だった
どうして……
「憂、誰なの?あんたの知り合い?」
続いて母親が玄関に来てその後ろには義父が……
「憂君のご両親、少しお話を宜しいでしょうか?」
そう朔夜は二人に言った
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