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大丈夫
俺には朔夜がいる
『親子の縁を……切らせて頂きます』
そう言って俺は目の前の二人に頭を下げた
するとその瞬間義父は鼻で笑った
「恩を仇で返すとはまさにこう言う事だな。一人暮らしもさせて貰っといて次は縁を切りたいだとよ」
と、母親に話しかけた
「好きにすればいいんじゃない?私達にはこの子がいるし」
「そうだな」
『……』
朔夜が俺の手をまた強くぎゅっと強く握った
朔夜をチラッと見てみると、先程と同様顔は愛想良くニコニコしていたが目が全然笑っていなかった
きっと俺以上に腹を立ててくれてる……
「いいお友達を持って良かったな憂。何処でどう知り合ったのかは知らないがあの大企業の息子さんだ。そんな方とシェアハウス出来るなんて奇跡じゃないか。せいぜい飽きられない様に頑張らないとな!……ところで君のお父さんは……」
『…………』
態度が一転し、朔夜父の事を朔夜に聞き始める義父
親子の縁を切りたいって言ったにも関わらずその話を食い入る様に一緒になって聞こうとしている母親
もううんざりだ
俺は黙ったまま鞄から分厚い封筒を取り出しそれをテーブルの上に置いた
『この中に今まであんたが出してくれてた3年分の家賃が入ってる』
「……あ?」
義父の話を遮り俺は続けた
『これであんたに借りは返した。だから、今後一切俺に関わらないでくれ』
そう言うと、義父はまた鼻で笑った
「3年分って……おいおいおい何馬鹿な事を言ってんだよ。お前みたいな奴が……」
封筒を手に取り、中身を見て義父は固まった
「は、ははは……成る程な。そこのお友達を利用したんだなお前は。本当にクズだな」
『…………』
朔夜をチラッと見た後、中身を取り出し義父は札束を1枚1枚数え始めた
「……確かに3年分だ」
『ああ』
「分かった、今後一切お前に関わらないでやるよ。お前の誠意を受け取ってやるよ。それより君は本当にこいつと一緒に住むつもりなのか?このお金は君が用意した物だろ?」
そう朔夜に聞く義父
「ええ、ですが差し上げた訳ではないんで」
「ふんっまぁいい」
金額を見て満足そうに義父は笑い札束を母親に渡した
表情が和らぐ母親
俺の事は見ずに札束ばかり見て……
本当に未練なんかない
「それとこれは俺から」
続いて朔夜も封筒を出し母親に差し出した
……は?
母親は直ぐに受け取り、中身を見た瞬間また嬉しそうに笑った
「それを受け取る代わりに今後一切俺達に関わらないと約束してくれますか?」
「勿論よ」
即答する母親
「では約束ですよ?」
「ええ」
母親は朔夜に向かって微笑んだ
「それと貴方にはもう一言言いたくて……こんな素敵な息子さんを生んでくれて本当にありがとうございます」
『朔夜……』
「では、これで憂は貴方達とは無関係になりましたね?」
「ああ、好き勝手に生きろよ」
「憂、最後に2人に言う事は?」
優しい視線を向けられた
『妹を……幸せにしてあげて下さい』
俺は最後に二人にそう言った
二度と会うことはない俺の妹
元気に産まれて来て下さい
どうかこいつらみたいな人間にはならないで
そう……強く願った
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