ふつうの日々

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 支度を終えると僕は軽やかな気持ちで大学を背にして安寧の地である家を目指した。  外に出ると空はもう夕空になっていて、優しいオレンジ色が紺色に変わり始めている。  大学の入学とともにはじめた一人暮らしは最初のうちは不安ばかりだったけど、慣れるととっても快適だ。それに最近彼女と同棲を始めたから寂しくもない。大学まで自転車で十五分という遠くもなく近くもない距離感も気に入っている。ほどよい通学時間は考えごとをするのにぴったりなのだ。  今日も自転車で風に吹かれながら課題のことを考えていた。 「来週までの課題どうしよう。『かくしごと』って言われてもなぁ……」  不定期に出される課題は僕の悩みのタネだった。レポートならテキストやレジュメを参考に書き上げることができるが、小説作品となるとそうもいかない。一からストーリーを自分で考えなければならないのだ。それがつらい。  それに今回は「かくしごと」というテーマが設定されている。この難問をどう調理してやるか……。  僕は頭を抱えた。 「だいたいこういうのは自分の体験を交えるのが常套手段なんだよな」  それなら作家を目指していることはどうだ?
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