私が開けた穴

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私が開けた穴

 夜は感覚が鋭くなっている。  窓辺では一昨日生けたスカビオリとギガンジュームの紫が、暗闇に揺れている。綺麗だと思うけど、それだけ。そんな自分に思わず笑ってしまう。  哀しい映画を観ても、目の前で友達が別れ話をしながら泣いてても……事実しか感じられない。ひとつ思い出すと他の記憶も目の前に広がってしまう。  そして決まっていつも、暗闇の底の底に落ちている。  ここから抜け出す方法を私は一つしか知らないから、安全ピンを手に取り、右側の閉じかかった穴を再び自分の手で開ける。利き手と逆を使うのは何回やっても慣れない。でも、慣れないくらいが丁度いいんだ。鋭くなった感覚が一点に集中し、涙が反射的に流れる。  暗闇の底から戻り、生理的な涙を流しながら笑ってしまう。  どうやら私は、小さく空いた穴がないと普通の世界には居られない。
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