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本をやった日から小休憩の誘いが少なくなった
どうやら真面目に本を読みはじめたようだ、とても意外だったし、知らぬ間に1巻を手に入れ2巻3巻と読み進めていることに気がついてからは彼の生真面目な面を認め無い訳には行かなくなった。
俺はと言うと最終の8巻がどうしても手に入らず苛立っていた、多少遠くの本屋に足を運ぶくらいでは手に入りそうもない。ついには美浦の読書は進み俺に追い付いた
「5巻返すよ」数日ぶりに昼飯に誘われて人気のない屋上で美浦にそう言われながら、やったはずの本を付き渡された「って言っても読んでる間にボロくなったから買い直したんだけどさ…」と申し訳なさそうにしている。快くやったモノはではなかったが、やったモノだ、わざわざ返さなくても良かったのにと告げる
「その本、一巻から買ってるんだけど」知ってる「すげー入手困難で、値段もそれなりだし。もらうの悪いなと思ってさ…」真面目か!
「それなら」と本を片付け、鞄から弁当を取り出す。
固くなった卵焼きを箸でつまみ上げ口に運ぶ。
「あ…」
が美浦に横から食べられてしまった。
耳に掛けたはずの少し長い横髪は、彼の耳からハラリと外れ、それをまた邪魔くさそうに右手で掛けなおす。それを俺の顔のすぐ前でやるものだから鼻がムズムズして気恥ずかしくなる
シャンプーの香りが鼻に付き、整った横顔が妙に綺麗に見え、俺は生唾を飲み込んだ。
その日の放課後、半ば強制的に出かける事になった。
美浦には取り巻きが多く、生徒だらけの電車の中ではずっと誰かに呼び止められては話し込んでいる。俺はいつまでもこの状況に慣れないでいた。皆、話したい事だけ話して去っていく、勿論俺の事なんて見えていない。美浦だって知らない奴との話しばかりで此方を見もしない。
……俺は彼の隣で小さくなる事しかできない。
「ここは?」
「オレん家っ!」
「はぁ?」
降りた事のない駅を出て、少し歩くと住宅街があり田舎の風景には不釣り合いなお洒落なアパートが並んでいる。駅は小さいのに生徒が沢山降りるな?とは思っていたがそう言う事か。
コンビニや喫茶店、個人経営であろう雑貨屋なんて物も目についた、自分が思っているほどこの街は寂れていないのかもしれない
長財布から家の鍵を取り出して「はい、入ってー」と招き入れられる。
友達の家に入るなんて小学校以来で少し緊張する。
「お邪魔します。親は居ないの?」玄関には俺たちの靴以外無く、無意識に聞いた。
「…あ…!、家族なら出てるよこの時間」美浦は変な間を開けてからそう答えた、聞いてはいけない事を聞いてしまったのか?彼はお喋りの好きな奴だが家族の話だけは今までした事が無かった。何かしら面倒な家庭の事情があるのかもしれない
謝った方が良いのだろうか?とは言え憶測でしか無い、謝罪をする事なのか?余計に話がこじれそうで押し黙る事にした
お洒落なアパートはやはり内装もオシャレだ、カウンターで食卓とキッチンを向かい合わせで繋げている。ダイニングキッチンと言うやつだろうか?俺はその食卓に座らされ体を硬らせた。
美浦は目の前でグラスに麦茶を準備しキッチンからこちらに出してくれた。妙に正した姿勢で受け取る。緊張している事がバレたのか少し笑われた。
笑いながらどこかに行ったかと思うとノートパソコンを持って帰ってきた。それを俺の前に置き隣に腰をかける。
「これ。お前が探してるやつ見つけたけど買う?」通販サイト?オークション?画面を見せられ驚いた「本!探しても見つからなかった8巻!え?」あー、家にはパソコンなんて無いしネットというのはそう言うことも出来るのか、と興奮してしまった
少し値上げされたその本を2人でお金を出し合い買うことにした。美浦は読めば十分だと言うので保管は俺がする。買い方を聞いたがよくわからなかったので任せることにした。
「はぁ!今日はありがとう」何だかんだと長居してしまい慌てて玄関に出た、とても高揚して良い気分だった
「いいよ、喜んでもらえたみたいでなにより」照れ臭そうに笑う美浦。癖なのだろうか、こめかみ辺りに手を置く「また買いたい本が出来たらウチに来いよ?いつでもノーパソ貸すからさ!」
「いらないよ」
「え?」
「もともと本屋を巡って、その時に出会った本を読むのが好きなんだ。もうネットはいいかな」
「あ〜…」想定外だと言わんばかりに口を開けて黙る三浦
と、思えば頭を抱え「そうじゃなくて!!」
肩を掴まれた。そのままドアに背を貼り付けにされる。デカい手と高身長で上から見下ろされると少し怖い。
しかし、あの頃とは違って文句の一つぐらいは言える。コイツが何を考えているのかは知らないが
手を挙げたりしないという事は知っているからだ
が文句を言う前に
「分んねーかな、わざわざ違うクラスに声掛けに行ったり、女子との約束減らしたり、好きでもない本を読んで話し合わせてんのに」
はぁ?
話し合わせるのに本読んでいる?聞き捨てならないぞ!
「どうゆう意味だよそれ?!」
読書を侮辱されたのかと思って美浦の腕を払いのけようとした。でも、力負けして出来ない。様子が変だ、肩の手に力が入る。少し痛い
「話すか迷ってたんだけどさ、やっぱりダメだは。
田沼は同級生くらいにしか思っていない。だから理由が無いなら会いたいなんて思わない。
分かってたから物で釣ったんだろ?フラれた方がスッキリする」
俯いてポソポソと何の話をしているのかさっぱり分からない。あいたい?降る?
「好きなんだ…多分。オレは田沼のことが
彼女と遊んでる時なんかより…お前と…」
視線が重なる。いつの間にか三浦の指は俺の唇を優しくなぞっている
「一緒にいる事の方が大切になってて、可愛いと思ってた女子なんかより…」
声が震えているのが分かる。甘く光る瞳から目を逸らす事が出来ない
「ずっと…ずっと…」
軽く重なり合う唇。甘い吐息。離れていく暖かさ…
「キスしたくて、仕方がなかった」
俺は力が抜けてその場に崩れた。背中のドアが妙に冷たく感じる。
心臓がドキドキして何も考えられない、理解まで少しの時間がかかった。美浦にキスされてしまったのだと
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