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――退院から二週間。
海に来ていた。夜の海だった。
冬の海風に身震いしながら、私はマフラーに首をうずめた。
コートのポケットから、目的のものを取り出した。
それは一枚の書道半紙。
『道』の文字が、毛筆の黒で刻まれている。
人としての道を外さないこと。
その誓いを込めて、小学生の頃に書かされた。私の母親が命じたのだ。
誠実さが取り柄だった母親の、私に対する教育の形だったのかもしれない。
――人としてまっとうに生きなさい――
波の音に紛れて、母親の声が聴こえた気がした。
「ごめんな、母さん……」
私は半紙をぐしゃぐしゃに丸めて握り潰した。
「どんなに汚れようとも、私は家族を守りたい」
そうつぶやくと、私は丸めた半紙を海の向こうへと放り投げた。
押し寄せる苦しみに、私はその場で崩れ落ちた。
この夜は終わるのだろうか。
~完~
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