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不協和音
金曜日の22時。
週に一度、ぱらさんがとても楽しみにしているラジオの時間だ。
耳を傾けながら、Twitterでやりとりをする。
こうして、私たちは一家団欒のひとときを過ごしていた。
「母さん!」
突然、端正な顔立ちをしたアイコンの男が乱入してきた。
ぱらさんと同じくらいの年頃だろうか。
「僕だよ、山Gだよ!」
何事だろう。巻き込みリプライか?
「母さん、僕のことがわからないの!?」
どうやら私に話しかけているらしい。
「私のこと、お母さんだと思っているの?」
「えっ……」
困惑しているような素振りを見せる男。
「あなたは息子ではありません。人違いです」
私は冷たくあしらった。
私の息子は、ぱらさんだけだ。
何をどう勘違いしているのだろう。
まったくいい迷惑だ。
「息子じゃないんだ……」
山Gと名乗るその男は、きっと今にも泣き出しそうな顔をしているのだろう。
ばつが悪い。
その場を後にしようとした次の瞬間、ぱらさんが男に駆け寄っていった。
「どうしたの?」と声をかけている。
なんて心の優しい子なのだろう。
生みの親でもなければ、育ての親でもないが、私はとても嬉しくなった。
「お兄ちゃん!」
息子を慕う声が聞こえる。
おじさん同士のことはよくわからないが、どうやら意気投合したらしい。
次に会う約束までしている。
ぱらさんに新しい友達ができた。何とも微笑ましい光景だ。
「息子と仲良くしてくれて、ありがとう」
そうお礼を告げる。
いつの間にか男に対する不信感は消え去り、私はいつになく穏やかな気持ちに包まれていた。
山Gの言葉に耳を疑うまでは――。
「今、何て言ったの?」
私は、我を忘れて山Gを問い詰めていた。
「……クレイジーって言った?」
「クレイジー山G。僕の本名だよ」
思い出した。
山路と書いて、山G。
世の山下さんが山Pなら、山路さんは山Gではないか。
私はいつもそう思っていた。
いつの間にか、すっかり忘れていた。
「思い出してくれた……?」
そうだ、「山G」だけだとどこか物足りないと思っていた。韻を踏んで「クレイジー山G」にすれば、運気が上がりそうな気がしていた。
そういえば、この端正なアイコンはどこかで見覚えがある。
誰かに似ている気がする。
ディーン・フジオカだ。
そうだった。
ディーン・フジオカの「ディーン」は、広東語で「クレイジー」という意味だ。
記憶が走馬灯のように蘇る。
私はもう何も言葉にできなかった。
「僕が正真正銘の息子です。名付け親は……あなただから」
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