ハッピーバースデー

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ハッピーバースデー

「Twitter記念日おめでとうございます。ご登録いただいてから今日でちょうど10年です」  スマートフォンの画面に映る文字がそう教えてくれる。そういえば、新入社員の頃、自己紹介の欄に「趣味はTwitterです」って書いたっけ。今ならTikTokレベルなんだろうな。“イマドキの子”だと思われていたに違いない。  あれからもう10年も経ったのか。  私はいつしかライターになっていた。  “Twitter離れ”した時期もあったが、また戻ってきた。インスタも始めてみたが、どうもあのキラキラした感じが苦手だ。だが、学生時代の友達も、会社の同期もTwitter離れしたままだ。  久しぶりのツイートは何を書こう。  そうだ、仕事で書いた記事をシェアしよう。 「1」  Twitterのアイコンにバッジがついている。なんだろう。もしかして、誰かが読んでくれたのかな? はやる気持ちが指先を駆り立てる。 「ホリ圧様!!」  ぱらさんである。  最近フォローしてくれたおじさんだ。  久しぶりのリプライ。いいねもついている。  はにかみながら、いいね返しをした。  さて、次はどんなことを書こう?  そうだ、ライティングのちょっとしたコツをツイートしてみよう。  誰かの役に立つかもしれない。  通知が鳴る。  ぱらさんである。今度はリツイートしてくれたらしい。  ふと思った。  私のフォロワーは、ぱらさんしかいないのだろうか? いや、そんなことはない。フォロワーの欄には、間違いなく2以上の数字が書いてある。でも、だんだん不安になってくる。もちろん、ぱらさんには感謝している。  が、同時にどこか空虚感を感じるのも事実だ。嬉しいような悲しいような、そんな気持ち。つくづく自分勝手だと思う。  そういえば、ぱらさんはどんなツイートをしているのだろう? 思えば、ぱらさんのツイートを見たことがなかった。  ぱらさんのアイコンをタップしてみる。 「定時だから帰るよ。いつまでこのツイートできるかな」  陰気である。  そして、なんだか意味深である。  この時、私が何かリプライさえしていれば、きっと現在進行形の未来はなかったーー。  翌日。  私はその場で固まった。  スマホから目が離せない。全身の血の気が引くのを感じた。 「咳も出るし、声も出にくい。頭もボーッとする……」  ぱらさんである。  そんな、まさか……。  いや、信じたくない。ぱらさんがコロナにかかったなんて。  怖くて続きが読めない。どうしよう。涙が出そうになる。  昨日のあのツイートが頭をよぎる。 「定時だから帰るよ。いつまでこのツイートできるかな」  どうして異変に気づけなかったのだろう。もう今さら何を言っても遅い。頭ではわかっている。手遅れであるということは。  後悔の念に押しつぶされそうになりながら、勇気をふりしぼる。  続きを読む覚悟を決めた。 「鼻水も出るし、涙も出る……。毎年恒例の花粉症でした」  なんて紛らわしいのだろう。だが、同時に安堵感がどっと押し寄せる。  文句の一つでも言いたいところだが、私はこうリプライしていた。 「心配で心配で、泣きそうになりました」 「母さん……!」 「あなたを失うことはできない、息子よ……!」  こうして私たちは親子になった。  年上の息子だ。  まだ会ったことはない。
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